空港便は冷めない

午前一時二十分、空港の機内食工場に、出発便が三時間遅れると連絡が入った。真壁エマの担当するケータリングカートは、すでに封印され、積み込み口へ並んでいた。

窓の外では牽引車が行き交い、積み込み担当は別便の出発にも追われていた。いったん戻せば、狭い冷蔵庫の並びを作り直さなければならない。それでも、外へ出した時刻がばらばらな十台を「同じ便だから」と一括りにする方が危険だった。

「このまま待機でいい。二時間くらいなら平気だ」

配車係は言った。積み込み口は外気が入り、冷蔵庫より暖かい。しかも遅延は三時間で確定したわけではない。機材変更や搭乗口変更があれば、さらに待つ可能性がある。

エマはカートの温度記録と搬出時刻を確認した。最初の一台は、すでに冷蔵区域を出て四十八分経っている。コールドチェーンは「まだ冷たい気がする」で守るものではない。戻す前に封印番号を二人で読み、車輪の札へ戻し時刻を書いた。別便のカートと交差しないよう、通路の一方を一時的に空ける。誰かが「どれが先だった」と記憶で並べ替えなくても、数字だけで追える形にした。

彼女は同じ便のカートをロット番号でまとめ、すべて冷蔵庫へ戻すよう指示した。

「封印を切ったら積み直しになるぞ」

「切りません。場所と時刻を記録して戻します」

動かす順番も変えた。最初に出たカートを最初に戻し、冷蔵庫内では出発順ではなくロット順に並べる。急に搭乗が再開しても、古いものから迷わず取り出せるようにした。積み込み口に残したのは空の台車だけだった。

二時過ぎ、便は別の搭乗口へ変更された。もし外で待たせていれば、カートを長い通路の反対側まで押してから温度を確認することになっていた。

三時五十分、再搬出の指示が出た。封印は一本も切れず、記録も連続していた。飛行機が滑走路へ動き出す頃、エマの端末に次の通知が光った。

到着便の欠航で、返却される未使用カートが二十台。冷蔵庫の空いた区画へ、今度は戻り便を受け入れる仕事が始まった。