空箱の城
宅配便が届くたび、宇良は箱をすぐ捨てられない。
猫の「海苔巻」が必ず入るからだ。小さすぎる箱でも身体を折り、蓋の隙間から目だけ出す。
春、宇良は転居のため荷造りを始めた。部屋中に段ボールが増え、海苔巻は毎日違う箱を試した。
本の箱、食器の箱、冬服の箱。中身を詰めようとすると猫がいる。
「手伝ってるつもり?」
海苔巻は箱底を前脚で掻き、紙の乾いた音を立てる。
引っ越し前夜、残った箱は一つだけだった。海苔巻が最初に家へ来たとき使った、小さな箱。保護団体からその箱ごと受け取った。底には当時敷いたタオルの毛羽が残っている。
捨てるか迷い、結局、中へ猫のおもちゃを詰めた。
新居へ着くと、海苔巻はソファの下から出てこなかった。知らない床、知らない配管の音。餌にも触れない。
宇良は荷物を開け、古い小箱を出した。おもちゃをどけ、部屋の中央へ置く。
海苔巻は夜中に箱へ入った。翌朝には丸くなって眠っている。
新しい部屋には塗料と木材の匂いがしたが、箱の中だけは古い家の埃と猫の毛の匂いがする。
数日後、海苔巻は窓辺や台所も歩くようになった。それでも小箱は捨てず、家具の脇へ置いた。
大きな引っ越し箱を片づける音の中、海苔巻は自分の城から眺めていた。宇良が縁へ触れると、段ボールは朝の日差しと猫の身体で、薄く温まっていた。
宇良は小箱の側面に引っ越しの日付を書いた。前の家へ来た日も、その隣へ記す。段ボールは猫の爪で少しずつ傷み、角が柔らかくなった。新しい家具が揃った頃、友人が立派な猫ベッドを贈ってくれた。海苔巻は一度入り、その夜にはまた箱へ戻った。宇良は笑い、ベッドを箱の下へ敷く。豪華な土台の上に古びた城が載った。朝、縁へ顔を近づけると、紙の乾いた匂いの奥に、二つの家の日なたが混じっていた。
箱が完全に壊れたら、また小さなものを探せばいい。宇良はそう思いながら、折れた縁を紙テープで留めた。海苔巻は修理した場所へ顎を載せ、満足そうに眠った。