竜の卵は目で選ばない
「好きな卵を一つ選べ。赤い布を巻いたものが最も上等だ」
竜騎士学校の孵化試験。教官の言葉とともに、石台の上へ七つの卵が並ぶ。中央の巨大な卵には赤い布。前の人生のフィオラは迷わずそれを選んだ。
だが卵は死んでいた。孵化させられなかった責任を負わされ、不合格。数年後、厩舎番として卵を運ぶうちに、彼女は知った。生きた竜卵は鼓動に合わせて殻がごくわずかに温まり、死卵は香油で艶だけを作られる。赤い布は、失敗を押しつける標だった。
時間は、布へ手を伸ばす寸前へ戻った。
「赤が一番だ。迷う必要はない」
教官が前と同じ台詞を言う。
前のフィオラは「これにします」と答えた。
今度は赤い布をほどき、自分の目へ巻いた。
「見えなくては選べまい」
「だから選べます。飾りではなく、命を」
笑い声を背に、フィオラは一つずつ卵へ掌を近づけた。触れない。空気の温度だけを読む。
中央は冷たい。
右端も静か。
左から二番目、小さく煤けた卵の前で、指先に一拍の温もりが届いた。
とくん。
間を置いて、もう一度。
「この子です」
目隠しを外すと、それは誰も選ばないひび入り卵だった。教官が鼻を鳴らす。
「交換は認めない。孵らなければ不合格だ」
「交換しません」
前とは違う返答をして、フィオラは赤い布を卵の下へ敷いた。殻を叩かず、息を合わせる。とくん、とくん。三度目の鼓動で、ひびが金色に光った。
小さな鼻先が殻を押し上げる。
現れた竜は白銀ではなく、夜空の色をしていた。翼膜に星の斑点。殻の内側には、死卵にはない銀の血管が網のように輝く。孵化場の成竜たちが一斉に伏せ、教官が自慢していた騎竜さえ翼を畳んだ。
「星喰い竜……絶滅したはずだ」
教官の声が裏返る。
幼竜は赤い布ではなく、フィオラの指へ額を寄せた。石台の判定紋が、前回の灰色から眩しい紫へ変わる。
【契約成立/騎竜位階:王級】
そして幼竜は、前の人生では聞けなかった声で鳴いた。
「フィオラ」
生まれたばかりの竜が、彼女の名を呼んだ。