竜の宝珠は指を選ぶ
竜盟祭の晩餐で、ジークバルト公子は赤い宝珠を高く掲げた。
「王家が竜へ捧げる宝珠を、ドロテアが横領しようとした。彼女の宝石箱から見つかった以上、疑いようはない。婚約を破棄する」
宝珠は拳ほどもあり、内部で火が脈打っていた。竜への供物を盗む罪は、貴族の地位だけでなく命も奪う。
幼い頃から竜語を学んだドロテアは、祭壇の向こうで老竜が不機嫌に尾を打つのを見た。自分の無実より先に、偽りの断罪で盟約が傷つくことを恐れた。それでも彼女は誰にも縋らず、呼吸を一度整えた。
ドロテアは宝石箱を見た。朝までは空だった箱だ。だが空だったと叫ぶだけでは、用意された筋書きの中で見苦しく足掻く役になる。
「その宝珠に触れた者が、私だとおっしゃいますか」
「お前の箱にあったのだ」
「では、竜に選ばせましょう」
竜騎公ラザールが席を立った。彼だけが供物に触れる資格を持つ。赤い宝珠を祭壇へ置き、竜語で一語だけ命じた。
宝珠は最後に素手で触れた者の指を炎の輪郭として映す《指選びの珠》だった。
火が伸び、五本の指を形づくる。右手の薬指には、ジークバルト家の誓約指輪がくっきりと浮かんだ。
ジークバルト本人の手だった。
会場奥の竜が、低く喉を鳴らした。
「私は保管場所を確認しただけだ!」と彼は叫ぶ。「その後、彼女が盗んだ可能性は――」
「最後に触れた指しか映らないと、ご存じで告発なさったはずです」
ドロテアの言葉に、彼は黙った。
やがて恐怖に負けた声で言う。
「婚約破棄は撤回する。竜の怒りを鎮められるのは、お前の家だけだ。私を助けろ」
「供物を盗んだ方が、次は私の人生を供物になさるのですね」
ドロテアは婚約指輪を抜き、祭壇の手前に置いた。竜へではない。自分の過去へ返すために。
ラザールが竜の翼の影から手を差し出した。そこには命令も庇護もなく、竜盟の新しい交渉役として並び立つ意思だけがあった。
ドロテアはジークバルトに背を向け、炎の輪郭を横切って、その手を取った。