竜火を弾く青瓦

火山麓の町では、子竜がくしゃみをするたび屋根が燃えた。大人の家は耐火瓦へ替えられたが、孤児六人が暮らす古い納屋だけは藁葺きのままだった。

代官ミレーヌが改修を命じると、瓦職人組合は首を横に振った。

「無料仕事を一度受ければ、次も領主に使われる」

「無料にはしない」

彼女が示したのは、窯の使用料だった。焼いた瓦百枚につき一枚を共同備蓄へ納める。現金なら同日の最低取引価格で換算。備蓄は火災で家を失った世帯へ、申請順ではなく、屋根の危険度を公開採点して配る。孤児の納屋も特別扱いせず、藁屋根、避難者六人、消火水路から遠いという点数で最優先になった。

「領主館の飾り瓦も百枚焼く予定だ」

ミレーヌは言った。

「一枚、備蓄へ入る」

職人たちは顔を見合わせた。命令ではなく、代金と規則がある。最初の一枚を持ってきた親方は、欠けのない青瓦だった。

それから町は動いた。鉱夫が耐火粘土を掘り、荷車屋が運び、子どもたちは瓦の裏へ番号を刻んだ。誰の寄付かではなく、何枚目の共同備蓄かを示す番号だった。

最年少のカイは、屋根を見上げて尋ねた。

「僕らが大人になって出ていったら、この家は誰のもの?」

「次に寝床を失った者のものだ」

ミレーヌは答えた。

「だから君たちは借りを返さなくていい。屋根を次へ渡せばいい」

入口へ寄付者名を金文字で並べる案には、子どもたちが首を振った。代わりに掲げたのは、備蓄瓦の残数と次の配布予定だけだった。善意の大きさではなく、次に誰を守れるかを見せる板だ。職人たちは自分の名がなくても満足そうに頷いた。避難訓練の合図も子どもたち自身が決めた。

完成した夜、噂どおり子竜が町へ降りた。屋根の上で丸くなり、盛大なくしゃみをする。火花が雨のように散った。

住民が息を呑む中、青瓦は一枚も燃えなかった。火花は滑り、軒の水桶へ落ちて消えた。

カイが屋根裏の窓を開ける。

「ここ、竜も泊まれるかな」

青い屋根の上で、子竜が安心したように眠り始めた。