竜骨の下
灰野村の井戸は、夏になると湯になった。
地中に埋まる古竜の骨が熱を持つせいだ、と村人は信じている。新しい井戸を掘ろうとしても、竜の眠りを妨げる者はいなかった。
流れの地脈師ザフィールは、村の外れに突き出た白い肋骨を三度叩いた。
「怒っている音ではありません。下に空洞があります」
「宝があるのか」
村長の弟が身を乗り出す。
「水があるかもしれません」
「掘って竜玉が出たら、土地の持ち主のものだな」
その一言で、手伝おうとしていた者たちが引いた。
また有力者だけが得をする。ならば呪いを恐れていた方がましだ。
ザフィールは白い骨へ炭で規則を書いた。
掘り出した金銀、骨片、魔石はすべて売り、井戸の維持費へ入れる。価値と売値は広場で公開する。土地の持ち主には畑一畝分の借地料だけ。作業した者にも所有権は生じない。水は一世帯二桶まで無料、余剰は共同畑へ流す。
「竜玉が出てもか」
村長の弟が問う。
「出てもです。だから私も、見つけたふりをして懐へ入れられません」
翌朝、骨の前には誰もいなかった。
ザフィールが一人で土を掘り始めると、昼過ぎに羊飼いが黙って鍬を入れた。夕方には陶工が土を運ぶ籠を持って来た。翌日は村長の弟まで加わった。
「お前一人に掘らせると、本当に竜玉を隠すかもしれん」
口ではそう言ったが、彼は一番深い場所へ降りた。
三日目、肋骨の下から青い石が出た。
村人が息を呑む。
ザフィールはその場で秤に載せ、重さを書き、封をして共同倉へ運ばせた。誰の懐にも消えないのを見て、翌朝の掘り手は倍になった。
七日目、白い骨の下で岩が割れた。
冷気が吹き上がり、次いで澄んだ水が湧く。熱を持つ竜骨に触れた雫が、しゅう、と小さな音を立てた。
竜は目覚めない。
代わりに、乾いていた共同水路が目を覚ました。
売った青石の代金で作られた井戸枠には、竜の肋骨が一本だけ残された。
そこへ村長の弟が自分で刻む。
――宝が出ても、水が出ても、ここで見つけたものは皆のもの。
最初の冷たい一滴が刻んだ文字を伝い、白い骨の先から、子どもの差し出した杯へ落ちた。