紙喰い竜と最後の栞

王立図書塔に、紙を食う幼竜が現れた。

貴重な写本の背表紙が次々かじられ、学者たちは半狂乱になった。金色の羽毛を持つ小さな竜が書架の上で口をもぐもぐさせるたび、司書長は処分せよと叫んだ。

末席司書のコレットは、床に落ちた本を拾って首を傾げた。

彼女は価値の低い児童本まで丁寧に直すため、仕事が遅いと今朝も叱られた。けれど傷んだ本を一頁ずつ見る癖が、今回だけは役に立った。

紙の頁には歯形がない。削られているのは、表紙と頁をつなぐ糊の部分だけだ。幼竜は紙を食べたいのではなく、小麦から作られた製本糊を舐めている。

お腹が空いているのだ。

「写本一冊の値段を知っているのか!」と司書長が怒鳴った。

「だから、食事を出します」

コレットは修復室へ走り、小麦粉と山羊乳を小鍋で練った。製本用より柔らかく、塩を入れない温かな糊粥である。浅い皿へ盛り、書架の下に置いた。

幼竜は翼を逆立てた。誰かが動くたび金の羽毛が鋭く光る。

コレットは目を合わせず、離れた床に座って自分の昼食を食べ始めた。危害はないと伝えるには、待つしかない。

やがて、かすかな羽音がした。

幼竜は皿の前へ降り、舌先で糊粥を確かめる。一口。二口。すぐに顔ごと皿へ突っ込み、夢中で舐め始めた。

食べ終えると、幼竜は皿を前足で丁寧に押し戻した。書架へは戻らず、コレットのそばへ来た。破れた栞を一枚くわえ、礼のつもりらしく彼女の記録簿へ置く。彼女が読んでいた貸出記録の上に前足を置き、丸い頭を傾ける。

「まだ欲しいの?」

くるる、と喉が鳴った。

司書長が咳払いする。

「餌係として、ひとまず残ってもらわねば困るな」

今朝、契約を打ち切ると言われたコレットは、笑いをこらえた。幼竜は彼女の膝へ飛び乗り、閉じた本を枕にして丸くなる。

金の羽毛は古い紙より乾いて柔らかく、焼いた小麦の香りがした。薄い本一冊ほどに見えた体は意外にずっしりしていて、その温度が、冷えた図書塔の床からコレットを守っていた。