結界の外側を守る者

「能力なしでは、自分一人も囲えない」

防御魔法科の試験官ルドルフは、結界板に反応しない瀬良紬を嘲った。実技試験は、床に描かれた円の中で砂弾を十秒耐えるだけ。紬の円だけは古く、線が途中で切れていた。

紬は円の外にいた見学者の少女へ、自分の椅子を渡した。守る試験なのに、教師たちは採点対象だけを円内へ入れ、付き添いの市民を壁際に立たせていた。

開始鐘が鳴る寸前、学院外壁で警報が上がった。

演習用だと思われていた砂弾砲へ、何者かが実弾を装填していた。百本の魔力槍が実技場だけでなく、隣接する城下町へ向けて放たれる。教師たちは学院を覆う結界を閉じたが、その結果、外にいる市民は守りから切り離された。透明な壁のすぐ向こうには、朝市の屋台、荷車を引く老人、学院生へ弁当を届けに来た家族がいる。彼らは壁へ手をつき、中にいる魔法使いたちが自分たちを見捨てる瞬間を見ていた。

「学院内を優先する!」

ルドルフが叫ぶ。透明な壁の向こうで、町の人々が空を見上げていた。

紬は円の切れ目へ指先を置いた。彼女には壁を作る力がない。だが、どちらを内側と呼ぶかだけは選べた。

《能力・境界反転――指定した結界の内外を、一度だけ入れ替える》

「守る側を、逆にします」

切れた線が淡く光った。

学院の結界が裏返る。

町全体が内側になり、飛来した百本の魔力槍はすべて学院上空の狭い一点へ押し戻された。槍は発射台へ逆流し、実弾庫だけを白い光の中へ消し去る。城下町には砂粒一つ落ちなかった。

その代わり、学院の者たちは結界の外側に立つ形になった。

紬は二度目の壁を作らない。ただ町を背にして、静かに試験官を見た。

結界板は彼女の防御範囲を計算しようとし、《対象・城下一万二千八百六名》を表示したところで中央から割れた。

ルドルフの顔が引きつる。王都守護卿ガレオンが観覧席から立ち、紬の切れた円の中へ入った。彼は剣を抜かず、膝をつく。

「自分を囲う者は盾士です」

守護卿は、無傷の町を振り返った。

「自分だけを外へ出せる者こそ、守護者です」

円の外にいたはずの紬を、誰も部外者とは見なさなくなった。