緑のランドセル
玲奈が押し入れの箱を開けると、緑のランドセルが二つ重なっていた。
上は艶があり、下は角が白く擦れている。
「小萩のはきれいね」
母は廊下から言った。
「玲奈は物を乱暴に扱ったから、妹には新しいのを買ったのよ」
実家の片づけは、午前中で終える約束だった。母は捨てる物を指示するだけで、腰が痛いと言って居間にいる。
妹の小萩は、きれいなほうを持ち上げた。
「これ、私のじゃないよ」
「名前が書いてある」
「中を見て」
内ポケットから時間割表が出てきた。そこには玲奈の字で、月曜日に「ずこう」、火曜日に「せいかつ」とある。
擦れたほうには小萩の名札が縫いつけられていた。
「逆じゃん」
玲奈は言った。
小萩が肩をすくめる。
「ずっと逆だと思ってた。でも訂正すると、お母さんが怒るから」
「何で?」
「玲奈は雑、小萩は丁寧って話が崩れるからじゃない?」
居間から母の声が飛ぶ。
「何をこそこそしてるの。小萩はきれいなほうを持って帰りなさい。玲奈は捨てていいでしょ」
玲奈は返事をせず、二つのランドセルを床へ並べた。
子どものころ、同じ緑を選んだのは自分だった。小萩は赤がよかったのに、「お姉ちゃんを見習って」と緑にされた。そのことも、今まで忘れていた。
「赤、買えばよかったね」
玲奈が言う。
小萩は笑った。
「今なら買えるけど、背負う場所がない」
「リュックなら」
「派手な赤にする」
二人はランドセルから名札を外した。母の記憶を正すためではない。どちらが丁寧で、どちらが雑だったか、証拠を残す必要がないからだ。
寄付できる状態ではなく、粗大ごみにも出せない。自治体の案内を調べ、革製品回収の箱へ送ることにした。
玲奈は新しい段ボールに、一つずつ入れた。二つを重ねない。
母が廊下へ出てきた。
「そんなに丁寧にしなくても。玲奈らしくない」
玲奈はテープを引きながら答えた。
「私らしいかどうか、お母さんには決めてもらわない」
小萩ももう一箱を閉じた。
「私のほうも」
宛名を書き終え、差出人欄にはそれぞれの名前を記した。
二つの箱は同じ行き先へ送る。けれど、伝票は一枚にまとめなかった。