羊飼いは一万本の矢を連れ帰る

羊飼いヒセラは、戦場でも杖しか持たされなかった。

村の男たちが徴兵され、羊を預ける相手がいなくなったため、彼女も補給隊へ入った。兵士は羊毛の外套だけ受け取り、ヒセラ本人を「獣の後ろを歩く娘」と笑った。

技能も、群れを柵へ戻すためのものだ。

【職業技能《群導》:視界内にある同種の群れを、自分が杖で示す方向へ導く。】

国境平原で、味方軍は敵の新兵器に包囲された。

丘の上に並ぶ百台の連弩。そのすべてが同時に弦を引き、一万本の追尾矢が空を黒く染める。魔法障壁は三千本までしか防げない。将軍は歩兵を盾にして自分だけ逃げようとした。

ヒセラは空を見上げた。

矢の尻には、同じ白雁の羽が三枚ずつ付いている。風を受けて向きをそろえ、先頭の矢へ続く姿は、谷を渡る羊の群れにそっくりだった。

生きているものだけが群れになるとは、技能のどこにも書かれていない。

彼女は羊を呼ぶときの短い口笛を吹いた。

一万本の矢が、空中でわずかに揺れた。

「こっちよ」

杖を丘へ向ける。

矢の群れは味方兵の頭上で大きく旋回した。先頭が向きを変えると、後ろの矢も一糸乱れず続く。黒い雲は白い羽をきらめかせながら、発射した連弩隊へ帰っていった。

敵兵が逃げ出すより早く、一万本が百台の兵器だけを貫く。連弩は順番に砕け、丘の上で木片の波になった。

味方の誰一人、傷ついていない。

逃げかけていた将軍が「我が軍の新戦術だ」と叫ぶと、兵士たちは彼を見ず、ヒセラの杖の先へ整列した。

遠くの補給陣では、本物の羊たちも一斉に同じ方角を向いている。

ヒセラは杖を敵本陣へ向け直した。

今度は兵士たちが、彼女の後ろを歩き始めた。

兵士たちは将軍の号令ではなく、ヒセラの口笛で歩調をそろえた。負傷者を中央へ、盾兵を外側へ、逃げる敵には道を残す。羊を崖から落とさないため覚えた導き方は、勝ち戦で人を獣にしないためにも役立った。丘の上の敵兵まで武器を捨て、白い羽の道を下り始めた。

【職業《羊飼い》が上位職《万象牧導者》へ書き換わりました。】