花嫁を守る会

麻衣の結婚式まで一週間、匿名アカウント「花嫁…守る会」から警告が届いた。

スマホの表示幅では名前の途中が省略されていたが、花嫁を守る会に決まっている。投稿には、婚約者の修平が式場から逃げたがっている、友人と会うのを禁じられている、と書かれていた。

「また元カノたちだよ」

麻衣は笑い、修平のパスポートを私へ預けた。

「なくす人だから、由良が持ってて」

打ち合わせ中は彼のスマホも私が持った。麻衣が「余計な連絡で不安定になるから」と頼んだのだ。修平は返してほしいと言ったが、結婚前の緊張だと思った。

彼の手首には薄い爪痕があり、麻衣はふざけてついたものだと笑った。修平が笑わないので、私は場を和ませるため「愛されすぎるのも大変だね」と言った。麻衣だけが声を立てて笑った。

匿名アカウントは何度も私に連絡した。添付された音声には、麻衣が「私なしでは何も決められないよね」と修平へ囁く声があった。親しい二人なら言う冗談を、悪意のある部分だけ切り取ったのだろう。

〈彼の家族の番号を消さないで〉

〈ホテルの部屋に鍵を掛けないで〉

〈助けてと言ったら、花嫁に知らせないで〉

卑劣な破談工作だった。私はすべて麻衣へ転送した。麻衣は「由良だけは裏切らないね」と手を握った。

式前夜、修平がホテルからいなくなった。非常口へ向かう彼を見つけ、私は腕をつかんだ。

「麻衣を傷つけるつもり?」

「頼むから、そのアカウントをちゃんと読んで」

彼は警備員に連れ戻された。麻衣は泣きながら私に抱きついた。私は親友の未来を守ったのだ。

部屋へ戻り、証拠としてアカウントをパソコンで開いた。広い画面では、省略されていた表示名が最後まで見えた。

過去の投稿には、修平だけでなく、麻衣の元恋人、元同僚、大学時代の友人たちの証言が並んでいた。携帯を取り上げられたこと、住所を変えられたこと、逃げると自傷をほのめかされたこと。

私はそれでも、式が終われば落ち着くと思った。

表示名にあった助詞は、「を」ではなく「から」だった。