花嫁を映さない鏡
婚礼の誓いが終わる前に、鏡の中の客たちが一斉に笑った。
現実の客は笑っていない。大広間の壁を埋める銀鏡だけが口を開き、黒い歯を見せている。花嫁エゼルの背後では、鏡の司祭が細い腕を伸ばし、彼女の首へ触れようとしていた。
カルドゥは列席者を押しのけ、祭壇の前へ立った。
彼の顔は磨かれた鏡でできている。呪いを正面から映せば、放った者へ返せる。ただし一度反射するたび、カルドゥの記憶から誰か一人の顔が消える。
最初の呪いが飛んだ。
鏡面で弾き返すと、叔父の顔を思い出せなくなった。声も、酒臭い息も覚えているのに、首から上だけが白い穴になる。
二つ目。幼い頃にパンをくれた女の顔が消えた。
三つ目は客席全体を薙いだ。カルドゥは身体を広げて受け、鏡の司祭へ返した。母の顔が失われた。彼女が泣きぼくろを持っていたかどうか、もう確かめる術はない。
銀鏡から次々に腕が出る。客たちは床へ伏せ、エゼルだけが祭壇に立っていた。
「もう映さないで」
花嫁が彼の背へ言った。
「あなたが私を忘れる」
カルドゥは振り返らなかった。振り返れば、その顔を守りたくなり、最後の呪いを受けられなくなる。
鏡の司祭がすべての銀鏡を一つにつないだ。大広間ほどもある黒い顔が現れ、口から花嫁の死を吐き出す。
カルドゥは両腕を開いた。
呪いが鏡面へぶつかり、ひびが全身を走る。返された死は銀鏡を内側から砕き、司祭を無数の破片へ閉じ込めた。
静寂の中で、カルドゥの記憶から最後の顔が剥がれ落ちた。
エゼルの笑顔。
雨の日に怒った横顔。眠るとき少し開く唇。今日、薄布の下で彼だけに見せた泣きそうな目。
すべて白くなった。
客たちが歓声を上げる。花嫁は彼の正面へ回り、割れた鏡の頬を両手で包んだ。
「私よ。エゼルよ」
名前は知っている。守ると約束したことも覚えている。だが目の前の顔と結びつかない。
「花嫁は、どなたですか」
エゼルは手を離さなかった。
カルドゥの顔には、もう誰も映らない。黒く曇った鏡の奥で、知らない女の輪郭だけが、二度と取り戻せない記憶のように揺れていた。