裁判所裏の公衆電話

密告者は毎週木曜、裁判所裏の公衆電話からかけてきた。

男は声を低く変え、進行中の贈収賄裁判について、証拠の隠し場所を教えた。情報は正確だった。一方、裁判所の清掃員は無口な老人で、電話が鳴る時刻になると必ず東棟の廊下を磨いていた。勤務記録も同僚の証言もあり、二人に接点はないと思われた。

気になったのは、密告者の声の奥で三回ずつ響く金属音だった。清掃員の鍵束も、歩くたび同じ間隔で三回鳴る。もう一つ、受話器から微かに漂う檜の匂いが、清掃員の使う床用洗剤と同じだった。

密告によって、被告側の書庫から帳簿が発見された。だが帳簿の紙は新しく、数年前の記録にしては変色がない。誰かが裁判所内へ偽の証拠を持ち込み、密告で見つけさせている。

公衆電話の硬貨返却口には、毎回きれいに磨かれた十円玉が一枚残された。清掃員のカートにも、床の傷を測るための同じ年代の十円玉が多数入っていた。本人に尋ねると、耳が遠いふりをして紙へ「拾っただけ」と書いた。その筆跡には、密告文の宛名と同じ右上がりの癖があった。

裁判所の出入口記録では、密告者の電話中、清掃員は確かに館内にいる。だから皆は共犯を想定した。私は逆に、電話口に人がいるという前提を疑った。

木曜、私は公衆電話の前で待たず、東棟の廊下へ向かった。清掃員はモップを動かしていた。遠くで電話が鳴り、捜査官が受話器を取る。密告者の声が始まった瞬間も、清掃員は私の目の前にいた。

同僚たちは彼の潔白を確信した。だが私は、清掃用カートの蓋を開けた。中には携帯送信機と、低く加工した声を時刻通りに公衆電話へ流す装置がある。鍵束の音まで録音されていた。

「密告者は今、電話の向こうにいる」と清掃員は筆談した。彼は声を失った老人だと思われていた。

私は装置を止めた。

「では、話してもらいましょう」

清掃員は背を伸ばし、密告者と同じ低い声で舌打ちした。失声も老人の身振りも演技だった。

裁判所裏から電話をかける男と、廊下を磨く老人は二人ではない。公衆電話にいたのは録音で、本人はずっと私たちの足元を磨いていた。