親族席は全員役者
小劇団の座長・名越屋映親は、結婚式場から奇妙な依頼を受けた。
「新婦側の親族が欠席で、六名ほど家族のふりをしてほしい」
「台詞は?」
「自然に笑い、時々泣いてください」
「一番難しい芝居だ」
映親たちは父、母、兄、姉、叔父、祖母へ配役された。
披露宴が始まると、偽父役は新郎へ重々しく言った。
「娘を頼んだぞ」
新婦が小声で言う。
「私、今日初めて会いました」
「役へ集中してください」
「私が?」
偽母は幼少期の思い出を即興で語る。
「この子は三歳のころ、庭の池へ」
新婦が耳打ちする。
「うちに池はありません」
「では浴槽へ」
「落ちてもいません」
「思い出が弱い。何か落ちて」
「無理に過去を作らないで」
偽兄は新郎へ酒を注ぎながら、
「妹を泣かせたら俺が許さない」
と凄んだ。
新郎が頭を下げる。
「お兄さん、以前お会いした時より雰囲気が」
偽兄は固まった。
「以前?」
「両家顔合わせで」
映親は無線で指示する。
「兄役、記憶喪失で押せ」
「結婚式に重い設定を足さないで」と新婦。
さらに、偽祖母が祝辞で熱演した。
「生まれた日の朝、空に虹が」
「夜生まれです」
「月の虹が」
「現象を作らないで」
会場は笑いに包まれた。役者たちは、これも依頼どおりの演出だと思った。
ところが披露宴の途中、本物の親族六名が息を切らして現れた。
「高速道路の通行止めが解除された!」
新郎側の客席がざわつく。父が二人、母が二人、祖母が二人。
本物の父が映親へ尋ねる。
「あなたは誰です」
映親は胸を張った。
「今のところ、お父様です」
「今のところ?」
式場担当者が青ざめた。
「欠席ではなく遅刻と聞いていましたが、手配票へ“代役希望”と」
新婦が顔を覆う。
「私が頼んだのは、余興の家族コントです!」
劇団は親族席ではなく、舞台へ出る予定だった。
披露宴はそのまま二家族分の即興劇になった。
本物の祖母は偽祖母の手を握った。
「月の虹の話、気に入った。親戚にならんかね」
偽祖母は即座に答えた。
「次回公演の席をご用意します」
一番泣いたのは、手配票を書いた担当者だった。