討伐報酬を先にもらいます
錦戸計都は、冒険者登録試験の最後に依頼掲示板の前へ立たされた。
登録希望者は自分に合う依頼を一枚選び、達成方法を説明する。計都の鑑定票には《魔力0》《技能なし》と並び、試験官は最下段の鼠退治を指した。
「能力なし。下水鼠にも返り討ちだろうが、死亡届だけは無料で書いてやる」
計都は鼠退治ではなく、掲示板の最上段を見た。
《黒鋼竜ヴァルガ討伐》
《推奨・S級十名以上》
《報酬・白金貨二千枚》
《未達成期間・四十二年》
その依頼のせいで北街道は閉ざされ、村々は塩一袋に銀貨を払っている。掲示板の角には、帰らなかった討伐隊の名札が幾重にも吊られていた。
視界には能力が浮かんでいる。
《報酬先取》
依頼一件の達成報酬を一度だけ先に受領する。世界は受領済みの対価に見合う結果を直ちに確定する。
胡散臭い能力だが、元の世界で給料の未払いを経験した計都には、働かせてから払わない仕組みより、順序が逆なだけでむしろ誠実に思えた。
「これを受けます」
受付が笑いに包まれる。
試験官は面白半分に討伐票を剥がし、計都へ投げた。
「受注だけなら王様にもできる」
計都は報酬欄へ指を置き、《報酬先取》を使った。
天井が暗くなった。
白金貨二千枚が空中から現れ、一枚もこぼれず受付の床へ積み上がる。続いて黒鋼竜の角、心臓核、討伐証明の逆鱗が、封印箱ごと整然と並んだ。
遠くの山脈から、空を覆っていた黒雲が消える。
伝令水晶がけたたましく鳴った。
『北方監視塔より! 黒鋼竜が光に包まれ、消滅しました! 四十二年ぶりに街道が見えます!』
計都は白金貨の山から一枚を取り、登録料の皿へ置いた。受付嬢が震える手で大量の釣り銭を返す。
「先払いされたので、依頼は終わったようです」
残りの硬貨は計都の新しい冒険者証へ吸い込まれ、預金欄に正確な額が刻まれた。ギルド手数料まで契約どおりだった。
二階の特別室から、四十二年間討伐隊を率いた隻眼のS級冒険者が下りてきた。彼は角を確かめ、計都を見て、黙って立礼する。
試験官の手にある鼠退治の紙だけが、場違いなほど小さく揺れていた。