誇りを食べる仔竜
割れたものを直す仔竜は、金も宝石も食べない。
持ち主が誇りにしている仕事を一つ食べ、その価値を胸から消す。食べ終えれば、どんな破片も継ぎ目なく元へ戻る。
ガラス職人のユノアは、工房の床に散った青い鳥を見下ろしていた。
弟子のキリクが初めて作った窓飾りだった。明朝の審査に通れば、彼は正式な職人になれる。だが吊り紐が切れ、羽も嘴も粉々になった。
「僕が結び方を確かめなかった」
キリクは青ざめていた。
「もう一度作る時間はありません」
棚の裏から、掌ほどの仔竜が這い出した。透明な鱗の下で火が瞬いている。
「誇りを寄越せ」
細い声で言う。
「大きいものほど、きれいに直る」
ユノアには差し出せる仕事がいくつもあった。
けれど仔竜は首を振る。欠けた杯や、売れ残った首飾りへの小さな満足では、粉々の鳥を戻せない。
「おまえが最も誇るものだ」
工房の正面には、七年前にユノアが作った《朝焼けの窓》がある。
赤から金へ色が移る大窓で、その一枚によって彼女は女には無理だと笑った組合へ入った。依頼人は窓を見て名を覚え、弟子たちは憧れて扉を叩いた。
苦しかった年月を、間違いではなかったと思わせてくれる仕事だった。
それを食べられれば、窓が壊れるわけではない。
ただユノア自身が、もう何の価値も感じなくなる。
「師匠、だめです」
キリクが破片を抱えた。
「これは僕の失敗です。あなたの七年と交換するものじゃない」
ユノアは、かつて組合長に作品を投げ返された日のことを思い出した。
その夜、師匠は黙って破片を拾い、「次は縁を厚くしろ」とだけ言った。慰めではなく、次の仕事を与えてくれた。
誇りは守るためだけにあるのではない。
誰かの次へ渡す火にもなる。
ユノアは仔竜を《朝焼けの窓》の前へ乗せた。
「これを食べて」
透明な牙が、胸の奥の光へ届く。
初めて大窓に朝日が差した日。組合の印章を受け取った日。母が何度も窓を見上げた横顔。温かなものが一筋ずつ仔竜の腹へ吸われていった。
床の破片が浮かび、青い鳥の形へ戻る。
最後にキリクが刻んだ小さな署名まで、鮮やかに蘇った。
仔竜が満足げに眠る。
ユノアは正面の大窓を振り返った。よくできているとは思う。けれど、知らない職人の作品を見るようだった。
「明日は、あなたがこれを持っていきなさい」
青い鳥を弟子へ渡す。
「師匠の窓を越えます」
キリクが泣きながら言った。
ユノアは、その言葉を喜ぶための誇りまで、たった今差し出したのだと知った。