赤灯を転がす

垣花朔臣は、赤い警告灯の支柱を蹴り倒した。

車輪のついた台座が床を走り、蔦森悠真の足元へぶつかる。綾部野美琴が、ようやく意図を悟って息を止めた。

規則は一つ。

〈終了ベルの瞬間、赤灯に最も近い一人を犠牲者とする。残る参加者を解放する〉

三人は開始から、部屋の中央に固定されているように見えた灯りから距離を取ろうとしていた。悠真は美琴を押し、朔臣の足を引っかけ、自分だけ隅を確保した。

だが赤灯の電源線には十分な余りがあり、台座の下には四つの小さな車輪がついていた。朔臣は開始前、係員が片手でそれを中央へ押してくるのを見ていた。固定物なら残るはずのボルトも床にはない。動かせないと思わせる中央配置だけが罠だった。床清掃のため移動できる備品だった。

悠真が灯りを蹴り返す。朔臣は電源線を引き、赤灯をまた彼の方へ滑らせた。美琴は壁の手すりをつかみ、争いに巻き込まれないよう体を浮かせる。

『赤灯の移動は想定されていません』

「想定と規則は違う」

『距離は開始位置から測定します』

朔臣は天井の測距表示を指した。三人と赤灯の間に、数字がリアルタイムで出ている。灯りが動くたび数値も変わる。

「機械は現在位置を測ってる」

残り三秒。悠真が朔臣へ飛びかかる。朔臣は横へかわし、電源線を足にかけた。悠真が倒れ、その胸元へ赤灯の台座が止まる。

ベル。

〈最短距離、〇・一二メートル〉

〈対象、蔦森悠真〉

悠真の首輪が赤くなる。朔臣と美琴の首輪は外れた。

美琴は、転がった警告灯を見下ろした。

「最初から動かせるとわかっていたの?」

「床に車輪の跡があった。毎回、犠牲者の血を掃除するために動かしてるんだろう」

悠真が呻く。

「俺を選んだのは、俺が二人を押したからか」

朔臣は否定しなかった。

「距離のゲームで、人を押すことしか考えなかった。物を動かす人間に負けたんだ」

出口が開き、赤灯は倒れたまま悠真の顔を照らした。危険を知らせるための灯りが、最後には誰が危険だったかを正確に示していた。