返品された百本の薬
「瓶が一度でも開けられたか分かるだけ? 薬を作れぬなら無能だ」
薬師ギルドの採用試験で、ベイルは門前へ放り出された。
【固有技能:《開封歴》――密閉容器に触れると、それが封をされた後に一度でも開いたか分かる】
中身の成分も効能も読めない。薬師長オルメドは「倉庫の鼠番以下だ」と笑った。
その冬、赤咳病が流行し、解熱薬の偽物が市場へあふれた。本物の瓶へ色水を詰め直す商人が現れ、人々は薬そのものを信用しなくなった。薬師たちは大量に作っても売れず、遠い村へ送れば売れ残りを抱える。必要な場所へ薬が届かないまま、患者だけが増えた。村の治療師は「使わなかった薬の代金まで払えない」と注文を断り、王都の倉庫には本物が積み上がる。需要はあるのに、売る側と買う側の危険が噛み合っていなかった。ベイルは瓶ごとに製造日と持出先を記し、どの村から何本戻ったかも帳簿へ残した。
ベイルは百本の薬を仕入れ、王都広場へ並べた。
「未開封なら全額返品。使った一本だけ払えばいい」
商人たちは嘲笑した。そんな条件では、客が水を詰めて返すに決まっている。
だが《開封歴》があれば、未開封品だけを確実に見分けられる。ベイルは村の治療師へ箱ごと預け、患者が出た分だけ代金を受け取った。発生しなかった村からは百本すべて回収し、次の流行地へ回す。買い手が危険を負わない返品保証によって、薬は倉庫ではなく人の手元に置かれた。
偽薬商人が、使った瓶へ色水を詰めて返品しようとした。ベイルが触れると、封は新しいのに開封歴がある。衛兵が瓶底を調べ、剥がしたギルド印を見つけた。偽物の流通路は一日で崩れた。
一月後、赤咳病は収束した。戻ってきた薬は洗浄され、次の冬へ備えて保管された。廃棄は従来の十分の一だった。
オルメドは、返品された最後の一本を手に取った。
「売った薬が戻るのは失敗だと思っていた」
薬師長は自分の認証印をベイルへ渡した。
「違った。戻せる約束があったから、皆が先に薬を受け取れたのだ。今日からギルドの信用を、おまえが封じろ」