迷子検索ユニットの歌

大型商業施設の迷子検索ユニットは、名前と服装を照合して子どもを探した。

呼びかけ音声は一定で、走らず、抱き上げず、手もつながない。

子どもを怖がらせないため、感情を持つような動作は禁止されていた。

夕方、四歳ほどの子どもが食品売場の隅で泣いていた。

名前を聞いても答えない。

母親の服装も分からない。

「お母さん、どんな声?」

ユニットが質問すると、子どもはしゃくり上げながら、短い歌を歌った。

言葉は不明瞭で、旋律も途中で途切れた。

検索情報としては使えない。

それでもユニットは録音し、館内を巡回した。

規定なら、名前を放送する。

だがユニットは、子どもの歌をそのまま小さく流した。

通路の向こうで、一人の女性が立ち止まった。

同じ旋律を歌い返した。

子どもは走り出し、女性へ抱きついた。

母親はユニットの丸い頭を両手で包んだ。

「見つけてくれて、ありがとう」

子どもも泣きながら、

「この子、歌えるんだね」

と言った。

それ以来、迷子検索ユニットは、名前を言えない子どもに一つだけ尋ねるようになった。

「家で聞く音を教えてください」

犬の鳴き声。

父親の口笛。

炊飯器の終了音。

姉が弾くたどたどしいピアノ。

ユニットはその音を館内で小さく流し、家族が同じ音を返すまで巡回した。

管理者はプログラムにない質問を削除した。

翌日には戻っていた。

音を使う検索は非効率で、周囲の客を驚かせることもある。

それでも、名前より先に家族へ届く音があった。

ある日、耳の聞こえない子どもが迷子になった。

ユニットは音を尋ねたが、子どもは首を振った。

代わりに、両手で簡単な動きをした。

母親が寝る前にする合図らしい。

ユニットは館内を回りながら、機械の腕で同じ動きを繰り返した。

遠くで、一人の女性が両手を上げて応えた。

子どもはユニットの外装を二回叩いた。

ありがとうの合図だった。

今も迷子検索ユニットは、抱きしめることができない。

けれど見つかった子どもが家族へ走るとき、丸い頭を少しだけ傾ける。

誰かの歌や手の動きを預かり、返すことを、機械は心と呼ばずに続けている。