逆光の集合写真

梓は、三年間ほとんどの写真に写っていなかった。

写真部で、行事のたびにカメラを任されたからだ。体育祭のゴール、文化祭の舞台裏、修学旅行の朝焼け。アルバムをめくれば、みんなの高校生活がある。けれど、そのどこにも撮った本人はいない。

卒業式後、クラス全員で中庭に集まった。校舎を背にすると、午後の光が強すぎて顔が暗くなる。

「場所変えよう」と梓が言った。

圭吾がカメラを取り上げた。

「今日は逆光でいい」

「よくない。顔がつぶれる」

「お前の顔が写るならいい」

圭吾は三脚を立て、セルフタイマーを十秒にした。梓を列の真ん中へ押し込み、自分は端へ走る。

赤いランプが点滅した。

九、八、七。

誰かが泣き顔を隠し、誰かが卒業証書を掲げる。梓は、どんな表情をすればいいかわからなかった。撮る側なら、笑って、と言える。撮られる側では、笑う理由を探してしまう。

三、二。

突風が吹いた。

三脚が傾き、カメラがゆっくり倒れ始めた。

「危ない!」

全員が一斉に前へ飛び出した。圭吾が腕を伸ばし、梓も反射的に走る。誰かの証書筒が転がり、女子の髪飾りが飛び、列はぐちゃぐちゃになった。

シャッターが切れた。

カメラは圭吾の手の中で無事だった。

「最悪」と梓は息を切らした。「絶対ぶれてる」

「確認しよう」

液晶には、整列した卒業写真ではなく、こちらへ駆け寄る三十人が写っていた。逆光で輪郭は白く光り、顔は半分しか見えない。それでも、全員が笑っていた。

真ん中の梓は、口を大きく開け、片手を伸ばしている。三年間で一度も見たことのない、自分の顔だった。

「削除する?」と圭吾が訊いた。

「するわけない」

梓はもう一度、タイマーをセットした。今度は三脚を低くし、校舎の壁へ寄せた。

「次はちゃんと撮る?」

「ううん」

梓は列へ戻り、みんなへ言った。

「十秒後、カメラに向かって走って」

卒業アルバムの最後のページには、二枚の逆光写真が入った。

一枚目は、倒れかけたカメラを救おうとする瞬間。

二枚目は、もう救う必要のないカメラへ、全員で笑いながら駆けてくる瞬間。

その二枚だけ、梓は誰よりも真ん中にいた。