透明傘の三人

鬼塚竜生は、市の委託で廃校の遺失物を整理していた。二十四歳。傘立てには透明傘が一本だけ残り、柄へ三人分の児童名が薄く刻まれている。

遺失物台帳の裏表紙に、用務員の字で注意があった。

《校舎の中で、透明傘を開いてはいけない》

この地域では、雨の日に亡くなった子の傘を四十九日間玄関へ立て、家まで濡れずに帰れるようにしたという。学校では持ち主不明の傘を昇降口へ集めたため、帰る家を失った子が内側へ入ると噂された。

作業中、天井の配管が破れ、機材の上へ水が落ち始めた。竜生はパソコンを守るため、一度だけ透明傘を校舎内で開いた。

傘の内側に、小さな手形が三つ浮いた。竜生の肩へ冷たい息が当たり、濡れた上履きが床を歩く。防犯カメラのモニターには、傘を持つ竜生の下へ、ランドセル姿の子どもが三人並んでいた。

遺失物管理システムには、傘を開いた時刻と同時に三件の返却処理が記録された。品名は児童、状態は濡れ、返却先は鬼塚竜生。添付写真では三人とも傘の透明な膜越しにしか顔が見えず、目鼻の位置へ竜生の自宅の窓やドアが重なっていた。市役所へ確認すると、その処理を行った端末は竜生のスマートフォンだと回答された。

竜生が傘を閉じると足音も消えた。ただし傘は急に重くなり、捨てようとしても手から離れない。彼はそのままタクシーを呼んだ。

配車アプリは乗車人数を自動で四名と判定した。竜生が一名へ直しても、発車すると四へ戻る。運転手はバックミラーを見て尋ねた。

「後ろの子たち、同じ学校ですか」

竜生が一人だと答えると、運転手は黙って最寄りの交番へ向かった。だが到着時のレシートには《乗車四名/降車一名》と印字された。

エレベーターの重量表示も、竜生一人で乗るたび四人分を示した。各階で扉が開くと、傘の内側から一人ずつ「ここじゃない」と囁いた。

帰宅して傘を玄関へ置くと、スマートロックの通知が鳴った。

《同伴者三名が玄関前に残っています》

《お子さまを校舎内へ戻しますか?》

選択肢は《はい》しかなかった。