銀河規約第十四条

 人類初の異星外交官、加賀見依子は、宇宙船の会談室でゾル=ピピと向かい合っていた。

 ゾル=ピピは半透明の触手を震わせ、翻訳機を通して言った。

「依子。初めて会った日から、あなたを特別な存在と認識しています」

「私を?」

「あなたと一つになりたい。未来を共有し、喜びも危険も分かち合いたい」

「それは、つまり……」

「どうか、私たちの輪に入ってください」

 依子の頬が熱くなった。宇宙規模の告白である。種族も星も越えた愛。記者会見では何と説明しよう。

「はい。喜んで」

「契約成立!」

 天井から紙吹雪が噴き、触手たちが一斉に拍手した。壁に巨大な文字が浮かぶ。

『銀河相互扶助連盟へようこそ!』

「連盟?」

「新規加盟文明の勧誘です」

「告白では?」

「告白とは?」

「個人同士が愛を伝える行為です」

「私が伝えたのは、四百八十年間の安全保障と資源共同利用です」

「『一つになりたい』は?」

「関税圏を」

「『未来を共有』は?」

「航路計画を」

「『特別な存在』は?」

「未加盟惑星として」

 依子の前に、三百十二ページの規約が現れた。第十四条には、小さく「契約は自動更新。解約申請はアンドロメダ支局へ持参」とある。

「遠い!」

「片道二百五十万光年です」

「クーリングオフは?」

「八地球日。ただし恒星間郵便の平均到着日数は九日です」

「悪質な勧誘じゃない!」

 外交問題になりかけたが、連盟の防衛網は魅力的だったため、地球は結局加盟した。

 一年後、地球文化を学んだゾル=ピピが、依子を月面庭園へ呼び出した。

「今回は組織ではなく、個体として申し上げます。あなたが好きです。恋人になってください」

「上位プランへの勧誘?」

「違います」

「月額はいくら?」

「無料です」

「解約条件は?」

「悲しいですが、自由です」

「特典は?」

「毎日、私があなたに会いたがります」

 依子は規約を要求し、全条項を確認し、専門家三名の審査を通した。それからようやく「はい」と答えた。

 ゾル=ピピは喜び、触手で小さな指輪を差し出した。

「なお、恋人紹介キャンペーン中です。もう一組ご紹介いただくと――」

「それを今言うな!」

 銀河史上初の異種族交際は、告白より勧誘のほうが一枚上手だった。