録画ランプの向こう側
私の退職面談には、「Recording Bot」という参加者がいた。
人事部長は議事録保存の自動機能だと言ったが、画面上の録画ランプは点いていない。
私は、内部通報をした直後から担当を外され、最低評価を付けられた。退職理由を「能力不足」とする合意書に署名すれば、会社都合にはしないという。
事業部長は言った。
「通報と人事は無関係だ。偶然時期が重なっただけです」
人事部長も頷いた。
私はRecording Botのプロフィールを開いた。
自動機能なら社内テナントに属するはずが、外部法律事務所のアドレスだった。事業部長は「顧問弁護士が念のため傍聴している」と言い換えた。
「では、なぜ名前を隠したのですか」
返事はない。
私は会議招待の履歴を共有した。弁護士を招いたのは人事部長ではなく、事業部長。件名は《通報者を自己都合退職にする面談》。CCには役員秘書、添付には今日の台本があった。
台本の更新時刻は、私への最低評価が確定する三日前。つまり評価結果を見て退職を促したのではなく、退職させるために評価を下げていた。
事業部長は、件名は便宜上だと反論した。
そのときRecording Botがカメラをつけた。顧問弁護士ではない。外部の労務監査人だった。
「このリンクは、法律事務所へ送られた招待メールのCCから届きました。会社の通報規程により、報復の疑いがある面談を監査しています」
監査人は共有ファイルを表示した。評価シートの版履歴には、事業部長が私の点数を四から一へ変更した時刻、その直後に退職合意書を作成した時刻が並ぶ。アクセス元は同じ端末だった。
加えて、通報受付メールの閲覧者一覧には、閲覧権限のない事業部長の名前があった。人事部長が誤ってCCに入れたのではない。事業部長自身が監査用共有箱へアクセスし、通報者名を検索している。検索から配置転換の予約まで、わずか七分だった。
人事部長は合意書を閉じた。
「退職勧奨を撤回します」
事業部長が監査人を退出させようとしたが、主催権限はすでに人事へ移されていた。
「同時に、事業部長の職務停止を決定します」
私の署名欄が消え、代わりに復職配置の承認欄が現れた。