鐘を待つ骸骨王

「鐘が鳴るまでお待ちください」

死霊術師ギルドの受付係ヴェスナは、死人にも順番を守らせる。

蘇生相談は白札、墓所移転は灰札、呪いの苦情は紫札。骸骨が顎を鳴らして急かしても、「規則です」の一言で黙らせた。死霊術師たちは彼女の青白い顔を見て、魔力酔いの半病人だと決めつける。

だが百年前の会員名簿にも、五百年前の葬送画にも、同じ横顔が受付台の奥へ小さく描かれていた。見習いのラズは、それに気づきかけながら、返却予定の棺桶を受付脇で磨いていた。

真夜中、玄関の鐘より先に、地下から骨の腕が突き出した。

床を割って現れたのは不滅王ザハーク。王冠の内側に魂を隠し、三百年ごとに国を滅ぼす古代の死霊だ。

「我が帰還を待たせる者があるか!」

咆哮で灯火が消え、居合わせた術師たちは魂を抜かれて倒れた。

ラズだけは驚いて棺桶の中へ落ち、蓋の隙間から受付を見た。

ヴェスナは整理札を一枚取り、紫の数字を王へ向ける。

「予約がありません」

不滅王の背後では、彼が従えてきた亡者の軍勢が地下から這い上がろうとしていた。しかし札の数字が一つ進むたび、骨の指は土へ戻り、結局一体も受付へ到達できない。

不滅王が死の波を放つ。

彼女は書類留めの針を抜き、空中の一点へ刺した。

何もない場所から、ひび割れた王冠が落ちる。

魂を隠した異界ごと、針一本で留めて引き出したのだ。

ヴェスナが番号印を押すと、ザハークの巨体は骨一片ずつほどけ、王冠の中へ吸い込まれた。最後まで怒鳴っていた口も、印の二度目の音で静かになる。

王冠の内側には二つの文字が並んでいた。

《敗者ザハーク》

《封印者・冥府ギルド創設者ヴェスナ》

彼女は散った骨粉を小さな刷毛で集め、王冠を「長期保管」の棚へ置いた。割れた床を死者の土で埋め、抜けた魂を全員へ返す。目覚めた術師たちは一斉に居眠りしたと思い、恥ずかしそうに姿勢を正した。

棺から這い出したラズへ、ヴェスナは紫札を一枚渡す。

「見なかったことにする申請です」

少年は震える手で署名した。

ほどなく玄関の鐘が一度鳴る。

予約客の骸骨が立ち上がろうとすると、ヴェスナは静かに制した。

「鐘が鳴るまでお待ちください」