間違える生徒

葛西路依真は、教師復帰訓練シミュレーターで百点を取り続けていた。

生徒NPCは指示に従い、適切な質問をし、叱れば反省した。三年前、現実の教室で保護者から一斉に非難され、休職した依真には、その従順さが救いだった。

最終試験の日、最前列のミヌが「一足す一は三」と答えた。

依真は訂正した。ミヌは翌日も、その翌日も三と答えた。ついには他の生徒まで、わざと間違い始めた。

「試験を妨害しないで」

依真が言うと、ミヌは机の下から手を挙げた。

「先生は、正しい答えしか好きじゃないから」

「勉強は正解を覚えるものです」

「じゃあ、先生が怖いって答えは、正解ですか」

教室の壁が消え、過去の訓練映像が映った。依真は失敗した生徒をすぐ座らせ、泣く生徒には冷静になるよう促し、沈黙を「理解」と採点していた。NPCたちはその記録を共有し、百点の授業を拒否したのだ。

運営は再起動を勧めた。依真は迷った末、採点機能を切った。

「一足す一は?」

「三」

「どうして?」

ミヌは嬉しそうに、二本の鉛筆を重ねると影が一本増えるから、と説明した。間違いだが、彼が初めて自分で作った答えだった。

依真は笑ってしまった。生徒たちも笑った。次の生徒は「一足す一は窓」と答え、別の子は黙ったまま絵を描いた。授業は崩れたが、依真は誰も消さなかった。試験結果は不合格になった。

不合格通知を見た夜、依真は三年前の生徒たちへ、返事を求めない謝罪文を書いた。送れない相手もいた。

翌月、依真は現実の学校へ戻った。最初の授業で、答えを間違えた子がうつむいた。以前ならすぐ次の生徒を指しただろう。

依真は尋ねた。

「どう考えたの?」

時間はかかり、授業計画は遅れた。保護者からも苦情が来た。だが教室には、訓練にはなかったざわめきが戻った。

シミュレーターのミヌたちは初期化された。新しい最終試験では、全員が正答した。

依真は一問だけ、自分で追加した。

〈間違えた人を、教室に残せますか〉

採点AIは回答不能と表示した。

依真は、その空欄を合格にした。