雨の日の予約枠

雨が窓を細く叩く午後、笹生麻琴は美容室の評価面談で、予約表の白い隙間を責められていた。

スタイリストになって半年。麻琴の一日あたりの売上は目標未達で、客一人にかける時間も平均より長い。湿気の多い日は相談も増え、予約画面の白い十五分が、店長には使われていない椅子に見えていた。

「十五分の空きが多すぎる。詰めれば、もう一人入れられるよ」

店長が指したのは、カラー客の後に麻琴が置く予備枠だった。その日、新人アシスタントが二人を同時に担当し、片方の放置時間を取り違えかけた。麻琴は予約表の色が同じことに気づき、薬剤を流す順番を入れ替えた。頭皮が弱いと申告していた客を、予定より早くシャンプー台へ案内できた。客は首元のタオルを握り、「今日はしみない」と小さく言った。新人は自分の遅さを謝ろうとしたが、麻琴は先に予約画面を開かせた。

「事故にはならなかったでしょう」

「私が空いていたからです」

麻琴は、雨の日だけ予約が自動で詰め直される設定を見せた。キャンセルが出ると、システムが予備枠を空席と判断し、別の客を入れてしまう。新人が遅いのではない。二人分の薬剤時間を一人で管理する設計になっていた。

彼女は予備枠を〈安全確認〉という予約種別へ変え、勝手に埋まらないようにした。新人には「速さで追いつかなくていい。時間を声に出して」と伝え、タイマーを客ごとに違う音へ設定した。誰の頭上で鳴っている音か、店のどこにいても分かるようになった。

店長は高単価メニュー中心の歩合コースを勧めた。

「売上を上げるなら、空きをなくす方が早い」

麻琴は歩合契約の紙を閉じた。代わりに、頭皮不安や長時間施術の客を受ける予約枠の試行案を出す。固定給のまま、枠の運用と新人教育を担当する内容だった。試行期間は一か月、待ち時間と肌トラブルの両方を記録し、売上も同じ期間で比べる。

窓の雨粒が一筋ずつ流れる中、麻琴は〈ケア予約担当を希望〉に印を付け、提案書を送った。