雨の日の雲豹洗濯
王宮の雲豹シロクは、雨を呼ぶ聖獣として中庭に祀られていた。
ところが半年ほど前から毛が灰黒くなり、近づく者へ泥を跳ね上げるようになった。神官たちは「穢れに堕ちた」と言い、浄化の火で焼く準備を始めていた。
洗濯女オデットは、雨樋の詰まりを直しに中庭へ入った時、その雲豹と鉢合わせた。
シロクが唸る。神官たちは回廊へ逃げ、「動くな、目を合わせるな」と叫ぶ。
けれどオデットには、黒い毛の正体が分かった。呪いではない。厨房煙突の煤と、祭礼で浴びせられた香油が混ざって固まり、皮膚を引っ張っているのだ。雲豹は怒っているのではなく、背中へ口が届かず苛立っている。
「洗濯物と同じ扱いをしたら、さすがに怒りますよね」
彼女は桶を置き、自分の腕をぬるま湯で濡らして見せた。香りの強い石鹸は使わず、米糠を溶かした水だけを布へ含ませる。
シロクは前足を上げた。爪が光る。オデットは身をすくめたが、その足は彼女を打たず、固まった胸毛の上へ置かれた。
「そこからですね」
煤の塊を一つずつ湿らせ、指でほぐす。灰色の水が何度も桶へ落ちた。途中、シロクは大きなくしゃみをして、オデットの顔へ泡を飛ばす。回廊から笑いが漏れたが、彼女は自分の頬を拭いた後、豹の鼻先も同じ布で拭いた。
一刻後、煤の下から現れたのは、真珠色の柔らかな毛だった。雨雲のようだった中庭が明るく見える。
神官長が「我らの祈りで浄化された」と進み出ると、シロクは水たまりをひと跳びし、彼だけを頭から濡らした。そしてオデットの前で横になり、腹を見せる。
雲形の印が腹毛に浮かび、彼女の腕へ流れた。王妃は浄化火を禁じ、オデットを王獣湯浴み役へ任命する。
翌日から洗濯場の女たちは、祭礼のたび獣へ油を浴びせる慣習をやめさせた。シロクも恩返しのように、洗濯物を干す昼だけ薄雲を退ける。これまで身分の高い者に頭を下げ続けたオデットへ、今度は神官たちが洗い桶を運んでくる番になった。
きれいになったシロクは、濡れた頭を彼女の膝へ置いた。乾き始めた毛は雨上がりの布団ほど温かく、水を含んだ重みが心地よく両腿へ沈んだ。