雨除け屋根の下の丸パン
王都の建築院で、ドルクの設計はいつも却下された。
「丈夫すぎる。見栄えがない。貴族の別邸には華が必要だ」
最後には予算を浪費した責任まで押しつけられ、彼は雨の多い辺境へ送られた。土地には屋外のパン窯があったが、窯口の真上から雨が落ち、薪も作業台も濡れていた。
初日に直すのは窯ではない。窯を守る、小さな屋根だけにした。
ドルクは廃材の柱を二本立て、壁へ梁を一本渡した。傾斜を深く取り、薄板を重ねる。華はない。彫刻も尖塔もない。だが風上へ釘を増やし、雨水が窯口から外へ流れるよう軒を長くした。
近所の織工メアが、濡れた頭巾を絞りながら見ていた。
「その屋根、家より頑丈そう」
「パンが濡れたら困る」
「人は?」
「そこへ立てば濡れない」
最後の板を打ったところで、最初の大粒が屋根へ落ちた。ドルクは釘箱を片づけ、もう直す場所を探さなかった。
二人が軒下へ入った直後、雨脚が強くなった。板を叩く音が一斉に響く。それでも窯口の前だけは乾いていた。薪へ火をつけると、炎は消えず、乾いた枝がぱちぱち鳴った。
メアが持ってきた粉と干し葡萄で、小さな丸パンを六つ作った。雨の匂いと、温まる石の匂いが混じる。屋根から落ちる雫は軒先で一本の幕になり、その内側でパンだけがゆっくり膨らんだ。
焼き上がる頃、増水した小道から羊飼いの一家が駆け込んできた。大人二人、子ども三人、濡れた子羊が一匹。小さな屋根のはずなのに、柱は揺れず、長い軒が全員を雨の幕から守った。
ドルクは六つの丸パンを一つずつ渡した。最後の一つはメアと半分にする。割れば干し葡萄の甘い湯気が顔へ上がり、冷えた指がほどけた。
子どもが梁を見上げる。
「お城みたい」
「彫刻も尖塔もないぞ」
「雨が来ないもの」
メアが笑った。
「華はないけど、必要なものは全部あるね」
外では世界中の雨が降っているようだった。
けれどドルクの設計した屋根の下では、火も、夕食も、人の肩も、一つも濡れなかった。王都で却下された丈夫さが、今夜は六人と一匹を、静かに支えていた。