雪崩試験の炊事兵
北方砦の防御試験で、トゥーラがかばう仲間は炊事兵オズムだった。
剣も魔法も使えない男を選んだことに、指揮官は舌打ちした。
「試験は戦力を守るためのものだ。鍋振りを残して何になる」
「凍傷者百人を温める者は、戦力に数えないのですか」
先月の猛吹雪では補給車が三日遅れた。オズムは自分の食糧を削り、凍った根菜と薬草だけで百人分の汁を作った。死者が出なかった功績は指揮官の『適切な備蓄計画』として報告された。トゥーラは、最後の椀を配ったあと彼が空腹で倒れたのを見ている。
オズムの手には、負傷兵へ運ぶ薬草スープの鍋がある。試験場は雪壁の下。指揮官が赤旗を振ると、仕掛けた火薬が山腹を割り、雪崩が二人へ襲いかかった。
ほかの受験兵は標的役を雪除け壁の陰へ押し込み、自分も杭へ命綱を結んだ。トゥーラは杭を使わない。オズムの火を消さず、鍋を傾けないためには、雪崩を後ろへ一粒も通せなかったからだ。『無茶です』と彼が言うと、彼女は空の椀を一つ差し出した。『合格祝いの分、残しておいて』
白い奔流と爆煙がすべてを隠す。指揮官は失格印を取り出したが、斜面の音に混じる金属音へ顔を上げた。
からん、と、お玉が鍋の縁を叩いた。
雪に埋まったなら聞こえるはずがない。煙雪が薄れる。トゥーラは片足を前へ出し、両腕を広げた同じ姿勢で立っていた。雪は彼女の左右で壁になり、背後のオズムは鍋を火から下ろしている。湯気は真っすぐ上り、スープは一滴もこぼれていない。
兵士たちから歓声が上がる。指揮官だけがそれを侮辱と受け取った。
「雪を割った程度で防御を名乗るな!」
彼は砦の秘蔵兵器、氷晶投槍器を向けた。雪竜の牙を核にした槍は、命中地点を内側から凍結粉砕する。試験使用を禁じられた《冬王杭》が放たれた。
トゥーラは動かない。オズムは彼女の背後で椀へスープを注ぎ続ける。
槍が胸元へ触れた瞬間、凍気は行き場を失い、柄へ逆流した。指揮官が停止符を押すより早く、雪竜の牙に亀裂が走る。
《冬王杭》は空中で砕けた。