零時の閉鎖ゲート
野々宮理玖は深夜配送の帰り、事故渋滞を避け、禁足林へ通じる赤神山の旧林道へ入った。ナビには道がないが、車載掲示板の過去ログで抜け道として紹介されていた。最後の返信だけ、太字になっている。
《午前零時ちょうどに閉鎖ゲートを越えてはいけない》
林業用ゲートは鎖が外れ、半開きだった。錆びた看板には《作業員は日付が変わる前に全員退山》とあり、人数欄へ毎日「六」と書き直した跡が残っていた。時刻は23時59分。待てばいいだけなのに、背後から大型車のライトが迫った。理玖はクラクションに押されるようにアクセルを踏んだ。
ダッシュカム記録
23:59:58 ゲート手前
23:59:59 警告音
00:00:00 ゲート通過
00:00:00 映像欠落
00:00:01 ゲート手前
越えたのは一度だけだった。しかし映像では、同じゲートの手前へ戻っている。背後から迫っていた大型車は消え、代わりに荷台だけが理玖の車へ連結されていた。幌の内側から弁当箱を開く音が五つ続き、車体重量の警告が鳴った。
理玖がミラーを見ると、後部座席に濡れた作業服の男たちが並んでいた。顔は暗く、膝の上に弁当箱を抱えている。一人が運転席の時計を指し、「まだ零時にならん」と言った。
理玖は前だけを見て走った。助手席の配送伝票には、届け先として旧林業宿舎、品名として《交代要員一名》が印字されていた。何度カーブしてもゲートが現れた。車載時計の秒だけが00から動かない。最後に理玖が目を閉じてブレーキを踏むと、朝の国道脇に停車していた。
配送会社には六時間遅れで戻ったことになっていた。後部座席は空で、泥もない。上司は居眠り運転を疑ったが、ダッシュカムを見て黙った。データはその場で消去された。
翌週、出勤のため車を起動すると、ナビが自動で経路を設定した。
目的地:《入山》
到着予定:00:00
同乗者:六名
キャンセルしても戻る。理玖はエンジンを切った。ドアロックが一斉に下り、後部座席のシートベルト警告が五つ点灯した。
ナビの音声が、作業員の声で告げた。
「まもなく閉鎖ゲートです。零時になるまで降りないでください」
画面の現在時刻は、昼の八時から一秒ずつ逆に進んでいた。