霧海で消えなかった灯

航海士ルアナは、霧海の星を読み違えた。

討伐船《青燕》は魔鯨の巣ではなく、岩礁帯へ入り込んだ。船底が裂け、積んでいた投槍の半分が海へ沈む。辛うじて無人島へ着いたものの、依頼期限には戻れない。

霧海では磁針が狂うため、航海士は星の明滅だけを読む。ルアナは誰より正確だったはずなのに、魔鯨の吐息が作る偽星を本物と思った。船底が岩へ乗り上げる音は、養父の船を失った夜と同じだった。

島へ泳ぎ着いた時、ラスムは最初にルアナの星図を拾った。それさえ、後で責任を示す証拠にするためだと彼女は思い込んだ。

船長兼剣士ラスムは壊れた舵を見つめ、銛使いジンバは浜へ、治癒師メリサは船室へ向かった。

ルアナは濡れた星図を抱えた。養父の船でも同じ失敗をし、「海に嫌われた航海士」と港へ置いていかれたことがある。

今回も、救助艇に乗せてもらえるだけましだ。

彼女は砂浜へ進退届を書き、羅針盤をその上に置いた。

濡れた星図の端には、三人が以前書き込んだ冗談めいた港名がまだ残っていた。

浜から戻ったジンバが、拾い集めた投槍を羅針盤の周囲へ突き立てる。

「狼煙台の骨組みだ。方角はお前が決めろ」

メリサは船室から乾いた毛布を三枚ではなく四枚運び、ルアナの肩へ最初の一枚を掛けた。

「熱がある。辞める話は下がってから」

ラスムは折れた舵輪を外し、その中央の真鍮輪をルアナへ渡した。

「新しい船にも付ける。保管してくれ」

「新しい船?」

「ここで直せなければ造る」

ルアナは霧しか見えない海を振り返る。

「私がまた星を誤れば、次も沈みます」

ジンバは狼煙の薪を積み、メリサは四人分の水筒を並べる。ラスムは砂に船の形を描き、その舳先へルアナの羅針盤を置いた。

「なら、星だけに任せない航路を四人で作る」

狼煙台の根元には、救助された後も四人で使う水樽が固定された。

夕方、霧の切れ間に一つだけ星が出た。

ルアナが方角を告げると、三人は疑わず動くのではなく、同じ空を見上げて確かめた。そして彼女の合図で火をつけた。

無人島の灯は、帰る船を失った四人全員のために燃えた。