青い炎は手袋から
菓子職人たちを招いた甘味夜会で、聖女ノエミが砂糖の白鳥へ触れた。
その瞬間、青い炎が翼を走り、彼女の袖を焼いた。白鳥を作ったのは、フェアクロフ家の令嬢ルチアナだった。
「砂糖に発火薬を混ぜたのでしょう」
ノエミの涙を見た婚約者カミーユは、試食卓を拳で叩く。
「聖女への嫉妬で食を汚すとは。ルチアナとの婚約を破棄し、厨房への出入りを禁ずる」
ルチアナは焼けた砂糖の匂いを吸い込み、怒りを落ち着かせた。白鳥は三日三晩、湿度を測りながら羽根を一枚ずつ飴で引いた作品だった。菓子は失敗すれば作り直せる。だが、信頼を味見もせず捨てる人は直せない。
「錬金院長に、試験紙を一枚だけお借りします」
丸眼鏡のソロモンが前へ出た。彼は灰色の試験紙をノエミの右手袋へそっと当てる。
紙は鮮やかな青へ変わり、空中に一文を浮かべた。
着火油、聖油型。付着時刻、接触の三分前。
青炎は砂糖へ混ぜた薬ではない。聖女が手袋へ塗った油が、砂糖の水分に触れて燃えたものだった。試験紙の文字は、甘味卓を囲む全員から読める大きさで空中に止まった。
「菓子は無罪です。甘すぎる芝居は、少々焦げましたが」
ソロモンが試験紙を畳むと、会場に笑いを噛み殺す気配が広がった。
ノエミは袖を抱え、カミーユは慌ててルチアナの肩へ手を伸ばす。先ほどの怒号より、その急な優しさのほうが彼女には薄気味悪かった。
「冗談ではない。これは事故だ。婚約破棄は撤回する。君には引き続き王家の菓子を任せる」
「味見もせず毒と決めた方へ、お出しする菓子はございません」
ルチアナは焦げた白鳥から無事な砂糖羽根を一本外した。
「それに、禁じてくださったのでしょう。王宮厨房へ入ることを」
ソロモンが研究院の銀札を掌に載せ、手を差し出す。
「食べられる錬金術の研究室を作る。最初の主任になってくれれば、予算も献立もあなたが決められる」
ルチアナはカミーユへ背を向け、砂糖羽根を胸元に挿し、その手を取った。