顔出しなしの救命眼

《白峰イオ、中身は別人って検証出てたよな》

《顔も出せないVTuberが現場救助とか》

《どうせスタント役に戦わせるんだろ》

 鏡蛇宮のボス、千眼バジリスクが通路を睨んでいた。

 視線を受けた救助班は六人とも石像になり、その背後で負傷者が動けずにいる。カメラ越しでも呪いは届くため、配信は輪郭だけの低解像度に制限されていた。

 白峰イオの立体アバターが、ボスの正面へ歩く。替え玉疑惑が出てから、彼女の契約はすべて凍結された。素顔を出せば済むと迫られても、イオは理由を明かさず拒んできた。今日は自分の胸元カメラと庁の固定カメラ、二つが同時に彼女を映している。

《遮光装備なし》

《鏡も全部割られてる》

《そのアバターじゃ石化を防げないぞ》

 イオは端末の【アバター解除】を一度だけ押した。

 銀髪の仮想姿がほどけ、簡素な作業着の女性が現れる。

 彼女は配信側へ安全フィルターが作動したのを確認し、閉じていた瞼を開いた。

 バジリスクの千の眼が一斉に見開かれ、次の瞬間、自分自身の呪いを受けて灰色に固まった。床まで響く巨体の落下音。救助班を覆っていた石も、主を失って剥がれ落ちる。石像のまま負傷者を庇っていた班長の腕が、最初に人の色へ戻った。

 イオの技能《真眼返照》。素顔の両目で受けた視線効果だけを、発した相手へ返す。普段アバターを使うのは正体を偽るためではなく、無関係な視線を反射しないためだった。

《生体署名、過去配信と一致》

《歩幅、利き手、魔力波形も同一。スタント説は捏造》

《石化六人解除。奥の負傷者も無事》

《素顔を隠してた理由、保護措置だったのか》

 イオは倒れた班員へ毛布を掛け、自分の目にはすぐ黒い布を巻いた。

「顔を見せれば信じるって言われたけど」

 担架を押しながら、彼女は小さく笑う。

「見せないほうが、皆さんは安全なんです」

《顔出し要求してたのが恥ずかしい》

《救助対象九人、全員生還》

《元検証動画に虚偽表示が付いた》

《切り抜き名、変わったぞ》

 炎上の発端となった動画の題名が、自動訂正された。

【『替え玉VTuber、現場から逃亡』→『素顔を封じていた救命の魔眼』】