魔法を消す旅人
メルク・ロアンは、魔術学院の廊下で学生とぶつかった。
学生の杖から火花が飛んだが、メルクの胸元でふっと消えた。
「まさか、魔法無効化体質?」
メルクは驚きながらも、低い声で答えた。
「ようやく気づいたか」
「ご自分では?」
「力を隠して旅していた」
学生が仲間を呼んだ。
「水弾を撃っても?」
「構わない」
水弾は彼の手前で霧になった。
「風刃は?」
「好きにしろ」
風も消えた。
「呪いは?」
「試験範囲を超えるな」
教授まで現れ、眼鏡を曇らせた。
「すべての魔力を分解する絶対零域……理論上だけの能力です」
「俺は理論に縛られない」
「魔力の消費は?」
「感じない」
「反動は?」
「ない」
「弱点は?」
「質問が多いことだ」
学院長はすぐ勧誘した。
「王国の対魔法兵団長に」
「給料は?」
「最強者が給与交渉を?」
「最強でも家賃は払う」
「現実に強い!」
学生たちは安全眼鏡まで配り、メルクの周囲で攻撃魔法を放ち続けた。炎、氷、雷、幻術。すべて一定の距離で消える。
「歩くだけで魔術文明を終わらせられる」
「そんな物騒な使い方はしない」
「平和主義!」
メルクはますます胸を張った。
「俺の前では大魔王の究極魔法も、ろうそくの火と同じだ」
教授が問う。
「実戦経験は?」
「ない。敵が近づかないから」
「説得力があるような、ないような」
学院長は中庭へ全校生徒を集めた。
「歴史的発見を公開します。最上級魔術〈天雷〉を無効化していただく」
メルクは空を見た。
「屋外で?」
「もちろん」
「今日は雲行きが」
「雷に天候は関係ありません」
「名前には関係ありそうだが」
彼が中庭へ一歩出た瞬間、背後で学生の火球が爆発し、上着の裾が燃えた。
メルクは池へ飛び込んだ。
教授は廊下の床を調べ、板を一枚外した。
「ここ、魔術実験室から漏れる力を防ぐ〈消魔結界〉の通路ですね」
学院長が尋ねた。
「では彼の能力は?」
池からメルクが答えた。
「泳ぎが速い」
その日、彼が就けたのは兵団長ではなく、学院の水泳講師だった。