黒い指の治療師

戦闘直後の礼拝堂には、負傷者が床を埋めていた。

治療師ヒュエラは祭壇へ掌を置き、悪魔ドラゼンを呼んだ。

契約の治癒は、どんな傷でも閉じる。ただし救った部位と同じ場所が、治療師の身体では悪魔の肉へ置き換わる。一人の脚を治せば自分の脚が、一人の眼を治せば自分の眼が、人ではなくなる。

最初は斥候の少女だった。裂けた太腿へ触れると傷が塞がり、少女は立てた。代わりにヒュエラの右脚へ黒い鱗が走り、膝が逆向きに曲がった。

次は弓兵。潰れた左手が戻る。ヒュエラの指は細長い鉤爪になった。

三人目の喉を治すと、彼女の声が二重になる。四人目の片目を治すと、左眼が金色に染まり、人の皮膚の下を流れる血まで見えるようになった。

「もうやめろ」と隊長ボリクが言った。

彼自身、胸を槍で貫かれていた。傷口から泡立つ血が溢れ、息は浅い。

「次はあなたです」

「心臓を治せば、おまえの心臓が奴のものになる」

ドラゼンが祭壇の亀裂から笑う。

「賢い男だ。悪魔の心臓はよく働くぞ。眠らず、怯えず、愛さない」

ヒュエラはボリクの胸へ手を重ねた。

彼はかつて、彼女を戦場から背負って逃げた。治療師になれと言った。血を見るたび震えていた彼女へ、震える手でも傷は縫えると教えた。

「私は、あなたに教わった通りにします」

光ではなく黒い糸が指先から伸び、裂けた心臓を結んだ。ボリクの胸が大きく上下し、止まりかけた脈が戻る。

同時に、ヒュエラの胸の奥で人の鼓動が止まった。

一拍の静寂。

その後、別のものが六度、続けて脈打つ。肋骨の下から黒い角が枝のように伸び、皮膚を内側から押し上げた。血管が墨色に変わり、左眼の瞳孔が縦に裂ける。

「ヒュエラ」

ボリクが起き上がり、彼女を支えた。

名を呼ばれても、悪魔の心臓は何も速くならなかった。安堵も親しみも、胸には届かない。代わりに、礼拝堂にいる全員の心音が食卓の鈴のように聞こえた。

ドラゼンの声が新しい心臓から響く。

「治療は終わった。次は食事だ」

ヒュエラは鉤爪で自分の胸を押さえた。

負傷者は全員、人の姿で立ち上がった。

その中央に、彼らを救った治療師だけが、人間の心臓を持たずに立っていた。