黒石を握らない
六歳のセラの前に、七つの魔力石が並んでいた。
赤、青、緑、黄、白、黒。そして飾りにも見えない透明な小石。
王族の子が初めて属性を選ぶ儀式。親族も重臣も水晶板を囲み、失敗すればその場で継承順位が決まる。伯母のヴァレリアは黒石を持ち上げ、前の人生と同じ言葉を囁く。
「黒が一番高貴よ。強く握りなさい」
幼いセラは信じた。
黒石は彼女の魔力を吸い、伯母の娘へ流した。測定結果はゼロ。セラは王家の恥として塔へ送られ、伯母の娘が聖女となった。誕生日のたびに塔の窓から戴冠式の花火を見せられ、奪われた魔力で国が救われたと讃える歌を聞かされた。
処刑前夜、牢番が教えてくれた。黒石は属性石ではなく、魔力を奪う封印具。真の王族だけが反応させられるのは、台座に埋もれた無色石だと。
同じ黒石が、掌の前で鈍く光る。
セラは手を伸ばさず、透明な小石をつまんだ。
ヴァレリアの声が尖る。
「それは飾りよ。黒を選びなさい」
「飾りなら、私が持っても困らないでしょう?」
セラは小石を胸へ当てた。
最初は何も起きない。
伯母が勝ち誇った瞬間、透明な石の中に赤い火が灯り、青い水、緑の風、金の雷、白い光が順に渦巻いた。
七本の光が天井を貫く。
同時に、ヴァレリアの指輪が割れた。黒石へつながっていた細い魔力糸が露出し、その先は伯母の娘の測定器へ伸びている。
宮廷魔導士たちが一斉に立ち上がった。
「吸収術式だ」
「王女殿下の魔力を奪うための!」
ヴァレリアは黒石を床へ叩きつけようとしたが、セラが先に命じた。
「返して」
透明な石が震え、黒石から奪われていた魔力が奔流となって戻る。セラの頭上に王冠形の光が浮かんだ。
前の人生では、儀式の最後に《魔力なし・継承権剝奪》と表示された水晶板。
文字が一度すべて消える。
伯母が息を呑む前で、新しい文字が刻まれた。
《全属性適合》
《王統純度 測定上限超過》
首席魔導士はセラの前に膝をつき、かつて伯母の娘に向けた敬称を初めて彼女へ捧げた。
「唯一の正統継承者、セラ殿下」