黙るのは君の役目じゃない

椿原朔也警部補は、二本の鍵を机に並べた。

一本は墨谷英里巡査が現場で押収した古い真鍮鍵。もう一本は証拠袋に入っていた銀色の鍵。捜査報告書では、容疑者の所持品から見つかった鍵で部屋を開け、拳銃を発見したことになっている。

「銀色の方が開きました」

墨谷は小さな声で言った。

「真鍮の方は、錠に入りません」

「なら、なぜ押収時の写真には真鍮鍵しかない」

「写真の後で、係長が袋を預かりました」

会議室の扉が開き、有働清親刑事課長が入ってきた。

「確認は済んだか。令状請求書を出すぞ」

「鍵が替わっています」

「錆を落としただけだ」

「材質も山の形も違います」

椿原は銀色の鍵を拡大鏡に置いた。切削面に新しいバリが残り、複製機の油が付いている。鍵屋の刻印番号を照会すると、拳銃発見の二時間後に署近くの店で作られていた。購入者欄は空白だが、防犯映像には有働の運転手が映っている。

令状の発付時刻は、拳銃を撮影した時刻より四十三分後だった。

本当は、捜査員は令状も鍵もないままドアをこじ開けた。拳銃を見つけた後で、適法な任意捜索に見せるため、押収鍵を複製品へすり替えたのだ。

有働は椅子へ腰を下ろした。

「拳銃は本物だ。連続強盗にも使われている。手続の一つで凶器を野に戻すのか」

「違法捜索を報告します」

「報告すれば証拠排除だ。墨谷も無断侵入で処分される。君が指導した新人だろう」

墨谷の顔が青ざめた。

「私が、黙っていれば……」

椿原は彼女を見た。新人一人に罪をかぶせれば、課は守られる。自分も昇任審査へ進める。だが銀色の鍵を本物にすれば、警察は発見した後から入口を作れることになる。

「黙るのは、君の役目じゃない」

椿原は令状請求書を閉じ、代わりに違法捜索と証拠品同一性喪失の報告書を開いた。二本の鍵、押収写真、鍵屋の購入時刻を撮影し、墨谷の供述はまだ添付しなかった。まず自分の署名だけで出す。

有働が「考え直せ」と言った。

椿原は真鍮鍵を報告書の上に置き、監察室の受領箱へ銀色の鍵ごと差し入れた。