りんご飴の赤い跡
去年の夏祭りでは、彼女と口をきいていなかった。
文化祭の係を押しつけた、押しつけていない。そんな小さな喧嘩が長引き、同じクラスなのに半年近く避け合った。
今年、駅前で偶然会った。
彼女は深緑の浴衣で、手にはりんご飴。僕は部活の仲間を待っていたが、全員遅刻している。
「久しぶり」
同じ教室で毎日会っている相手に言う言葉ではなかった。
「うん」
それだけで終わるはずだった。ところが駅前に急な人波が来て、彼女が押されそうになった。反射的に手首をつかむ。
りんご飴が僕の白いシャツへ触れ、胸元に赤い線がついた。
「あ」
彼女の顔が固まった。
「ごめん」
「大丈夫」
「大丈夫じゃない。落ちないよ、それ」
去年なら、それだけでまた喧嘩になったかもしれない。
彼女は巾着から濡れたハンカチを出し、赤い跡をたたいた。近すぎて、僕は目をそらした。
「文化祭のときも、こうすればよかった」
「何を」
「先に謝る」
彼女の声は屋台の音に紛れたが、聞こえた。
僕も謝ろうとした。その瞬間、花火が上がった。
「――だった」
自分の声が消える。
彼女は眉を寄せた。
「何?」
次の花火が上がる前に言い直した。
「僕も悪かった」
今度は届いた。
彼女は少し笑い、りんご飴を僕へ差し出した。
「一口いる?」
「シャツにもう食べさせた」
「じゃあ本人も」
噛むと、飴が固くて歯に響いた。彼女は声を上げて笑った。
花火を見る場所まで、僕らは並んで歩いた。人混みではまたはぐれそうになり、今度は手首ではなく手を握った。
「これは緊急避難」
僕が言うと、彼女は去年と同じ言い方で返した。
「言い訳下手」
でも手は離れなかった。
翌日、洗濯してもシャツの赤い跡は少し残った。
新学期、そのシャツを着ていくと、彼女が気づいた。
「捨てなかったんだ」
「体育で使えるから」
「言い訳下手」
彼女は笑った。
文化祭の準備でまた意見がぶつかった日、僕らはその日のうちに謝った。
胸元の薄い赤が、喧嘩を長引かせないための印みたいに残っていた。