クリーニングの札
四か月ぶりに登校した彼女は、ブレザーの袖へクリーニングの札をつけたままだった。
六月の教室は全員夏服。彼女だけが冬の紺色に包まれ、入口で立ち止まった。
入院中、制服は母親がずっとクリーニングの袋へ入れていたらしい。今朝、季節を確かめる余裕もなく、そのまま着てきたという。
「暑くない?」
誰かが聞いた。
彼女は笑って、
「病院よりまし」
と答えた。
強がりだと分かった。
一時間目の途中、額に汗が浮いた。先生が保健室へ行くよう言ったが、彼女は首を振った。
「せっかく来たから、今日は教室にいたい」
休み時間、私は被服室へ走った。学校行事用の予備制服に、サイズの近い半袖シャツが一枚あった。
「着替える?」
差し出すと、彼女はブレザーの札を見た。
「これ外したら、入院してた時間まで片づけられる気がする」
誰もそんなことは言っていない。それでも、病院の四か月と学校の六月の間に、クリーニングの札だけが橋のように残っているのだと思った。
「じゃあ、外さずに着替えよう」
私は安全ピンで札を夏服の胸ポケットへ移した。
彼女は白いシャツになった。札だけが青く揺れた。
教室へ戻ると、友達が「新しい名札?」と笑った。
彼女も笑った。
昼休み、空白だったノートをみんなで埋めた。数学の公式、古典の訳、体育祭の写真。彼女はページをめくりながら、何度も「知らない」と言った。
そのたび誰かが説明した。
放課後、彼女はクリーニングの札を外した。
「もういいの?」
「今日のぶん、学校に戻れたから」
札の裏へ日付を書き、教室の掲示板へ貼った。
『出席一日目』
翌日も彼女は来た。三日目は休んだ。四日目にまた来た。
掲示板の札の隣へ、小さな丸が増えていった。
完全に元どおりになる日は、たぶん来ない。
それでも衣替えの日、彼女は冬を脱ぎ捨てたのではなく、胸ポケットへ残したまま次の季節を着た。
学期末、丸は途切れながらも増えていた。彼女は全部を数えず、最後の丸の横へ『また来る』と書いた。季節に追いつくより大切な予定だった。