コンセントを挿さない設置
久慈川颯真が縦型洗濯機を運び込んだのは、引っ越し初日のワンルームだった。客は段ボールに囲まれ、仕事着を今夜中に洗いたいと言った。設置票には「既設品なし、排水口確認済み」と印がある。
新人が本体を防水パンへ下ろし、コンセントへ手を伸ばした。颯真はその手を止めた。排水ホースを差したはずの口が、妙に高い。パンの奥をライトで照らすと、排水口の上に輸送用の透明キャップが残っている。内見時に臭気を防ぐため、管理会社がはめたものだった。
「確認済みって書いてありますよ」
新人が設置票を見た。
「穴があることと、水が流れることは別だ」
客は早く動かしてほしいと急かした。颯真は本体をもう一度手前へ出し、キャップを外した。ところが、その下の排水トラップには乾いた砂が詰まっている。建築工事の清掃で流れ込んだものらしい。このまま運転すれば、一回目の脱水で水が逆流し、床だけでなく階下まで濡らす。
管理会社へ写真を送り、除去の許可を取る。砂を吸い出し、ホースを固定してから、洗濯機を置かずにバケツ一杯の水を流した。水位が上がらないことを見て、ようやく本体を戻す。最後に少量の水で通水試験を行い、接続部を乾いた紙でなぞった。にじみはなかった。
客は回り始めた槽を見て、息をついた。
「すぐ挿してくれたほうが親切だと思ってました」
颯真は透明キャップを設置票に貼った。
「今夜洗えることより、明日の朝も床があることが大事です」
管理会社は清掃費を気にして、砂を少し流せば済むと言った。颯真は、流した先で詰まれば見えなくなると説明し、回収した砂を袋に残した。原因を排水管の奥へ押し込むのは修理ではない。客にも作業前後の写真を見せ、追加料金が発生しないことをその場で確認した。
署名をもらうと、配車係から電話が来た。次の家では冷蔵庫が玄関を通らないらしい。新人が工具箱を閉める。颯真は濡れていない紙片を捨てず、排水が正常だった証拠として袋へ入れ、次の階段の幅を端末で確認した。