コーチは六歳

 少年野球団「北風スターズ」は、元プロ選手の榛葉レオンを臨時コーチとして招いた。

 ところがグラウンドへ現れたのは、黄色い帽子をかぶった六歳の男の子だった。

「榛葉レオン君?」と監督。

「はい!」

 申込書の生年月日は見落とされていた。だが監督は、スター選手が若返り企画で変装しているのだと思った。

「ずいぶん小柄になられましたね」

「年長さんで一番大きいです」

「プロでも年長者だった、と」

「たぶん!」

 子どもたちは目を輝かせた。

「コーチ、打てるようになる方法は?」

「光ったらボタンを押す!」

「投球の軌道を見極め、瞬間的に反応しろということだ」

 レオンは昨夜遊んだ野球ゲームの話をしていた。

「守備のコツは?」

「丸い影のところに立つ!」

「落下点を予測しろ!」

「走ると疲れるから、青いジュースを飲む!」

「水分補給の重要性!」

 監督が一つ一つ名言へ翻訳するので、誰も疑わない。

「負けそうなときは?」

「一回消して、もう一回やる」

「過去を捨て、次の一球へ集中!」

「違うよ。電源を」

「なるほど、雑念の電源を切る!」

 練習試合が始まった。レオンはベンチの端で叫んだ。

「前に飛ばして!」

「それができないから困ってるんだ!」

「目をつぶらない!」

「はい!」

「ぶつかりそうなら避ける!」

「はい!」

 助言はあまりに単純だったが、少年たちは不思議と肩の力が抜けた。エラーをしても「次の画面!」と切り替え、最後には逆転勝ちした。

 試合後、背の高い男性が走ってきた。

「レオン! 勝手に申込書を持っていくな!」

 監督はサイン色紙を落とした。本物の元プロ、榛葉レオンだった。息子も父親と同じ名前で、家では「ちびレオン」と呼ばれているという。

「では、この子はコーチでは?」

「来月から小学生です」

 監督が青ざめる横で、選手たちは六歳のレオンを胴上げした。

「次も教えて!」

「じゃあ、宿題を先にやる!」

 その言葉だけは監督が翻訳せず、全員がそのまま家へ帰って宿題をした。

 名コーチは、翌日幼稚園へ戻った。