レベル一の最終到達者

相良湊の足元には、召喚陣の光がまだ残っていた。

鑑定球へ触れると、《レベル1》《魔力0》《職業未定》の三行が浮かぶ。

「能力なし。赤子から育て直したほうが、まだ早そうだ」

教育卿が笑い、他の勇者候補へ上等な装備を配り始めた。

湊の視界にだけ、四行目があった。

《完了》

進行中のものを一つ選び、その最終段階へ到達させる。

対象候補には、鑑定式、召喚陣、教育卿の演説、自分の成長、という項目が並んでいる。湊は迷わなかった。

元の世界では、毎日レベル上げをするゲームが好きだった。けれど今は、何年かかるか分からない修行に付き合う義理がない。

「僕の成長を、完了させます」

教育卿が装備箱から顔を上げる。

「負け惜しみまで幼いな」

湊は一度だけ《完了》を選んだ。

レベル表示が、1から2へ変わる。

次いで10、100、999。数字は一瞬ごとに桁を増やし、鑑定球の内側で金色の輪が重なった。千を越えたところで、王国最強の魔導士が椅子から立つ。万を越えると、壁に飾られた歴代勇者の武器が鞘から半分抜けた。

百万を越えた瞬間、数字が消えた。

代わりに表示されたのは、見慣れない一文だった。

《成長完了》

《以後、世界側の上限を更新します》

湊の体から光は出なかった。筋肉も増えない。だが足元の召喚陣が彼を中心に組み替わり、王都全域の魔力計が一斉に振り切れる音が、遠い鐘のように連なった。

鑑定球は割れず、湊の手から逃げるように台座を転がり落ちた。

教育卿が持っていた初心者用の木剣は、近づけられただけで芽を吹き、枝を伸ばして天井へ届く大樹になった。配られたばかりの聖剣は、持ち主の手を離れ、湊の前で切っ先を床へ向けた。

王が立つ。王妃が立つ。魔導士、騎士団長、勇者候補も、遅れて立ち上がる。

教育卿だけが座ったままだったが、それは敬意がないからではない。腰が抜けていた。

湊は空になった装備箱を見て、それから自分へ向けられた無数の視線を見返した。

誰ももう、彼に初心者用の何かを渡そうとはしなかった。