一万の斬撃を縫い閉じる

鎧下を縫うクオンは、北門防衛隊から追い出されたばかりだった。

兵士の肌を守る布鎧より、剣士の派手な武勲が尊ばれる国だ。彼が縫い目の弱さを訴えても、将軍は「針仕事が戦を語るな」と補給名簿から名を消した。

クオンの表示は、切れた服を直す以上の意味を持たないとされた。

【固有スキル《切れ目綴じ》:離れた切断面の端を合わせ、一枚の面として閉じる】

翌朝、敵国の剣聖が北門の前に一人で現れた。将軍は昨夜まで「自分なら一太刀で勝てる」と宴会で豪語していたが、相手の名を聞いただけで顔色を変え、最精鋭を門外へ盾として並べた。

彼が剣を振るたび、空に透明な斬撃が残る。一つ、十、百。斬撃はすぐには飛ばず、空を埋め尽くすまで蓄えられていった。

一万本に達したとき、剣聖は王都へ刃先を向ける。

防壁も城門も人間も、同時に細切れになる技だった。

将軍は転移札を使い、自分だけ逃げた。

残された兵士たちは、布鎧を着せてくれたクオンの名を呼ぶ。彼は門楼へ駆け上がり、空を見た。

斬撃とは、まだ何かを切った結果ではない。世界という一枚の面に、これから生じる一万の切れ目だ。

ならば開く前に、端と端を合わせればいい。

クオンは軍旗から糸を抜き、大針を空へ放った。

最初の斬撃の右端と、最後の斬撃の左端を縫い合わせる。続く切れ目も上下、前後、互いの端へつなぐ。

剣聖が技を解放した。

一万の斬撃が王都へ走ろうとして、自分自身と閉じた。

空に巨大な銀の球が生まれる。王都を覆っていた殺気まで、縫い閉じた内側へ吸い込まれた。

内部で刃が互いを切り続け、最後には一筋の風も残らず消滅した。反動で剣聖の武器だけが粉々になり、彼は無傷の北門を見上げて膝をつく。門外へ盾として出された精鋭たちにも、傷一つなかった。

逃げた将軍が戻るより先に、兵士たちはクオンを門楼の中央へ迎えた。

補給名簿から消された名は、今度は防衛記録の最上段へ刻まれる。

【職業《鎧下縫工》が上位職《万刃封綴士》へ書き換わりました】