一度も発言しない取引先

契約社員の更新面談に、取引先の社名を表示した参加者がいた。

カメラもマイクも切られ、部長は「次の商談が同じ会議室なので早く入っただけ」と説明した。

私は先月のシステム停止の責任を問われていた。

部長は、私が手順を無視して更新作業を行い、顧客に損害を出したと言う。契約は今月末で終了。退職理由は自己都合扱いにするから、反論しないよう求められた。

「取引先も見ています。恥を広げない方がいい」

無言のタイルが、圧力のように居座っていた。

私は作業記録を画面共有した。

停止直前、正式手順のファイルが別の内容に差し替えられている。更新者は部長、時刻は作業開始の八分前。元の手順では検証環境を使うが、差し替え版には本番で直接実行するよう書かれていた。

部長は「緊急対応だった」と答えた。

私は、作業開始前のオンライン承認会議の記録を開いた。参加者は部長と取引先だけで、私は招待すらされていない。議事録には《契約社員には通常手順と説明し、直前に差し替える》という発言が自動字幕で残っていた。部長は字幕の誤変換だと言ったが、録音の波形には本人の声が明瞭に残る。

私はメールのCCを開いた。部長は取引先へ、《契約社員の判断で本番作業をする》と事前連絡していた。しかし私には、同じメールからその一文を削った転送版しか届いていない。

無言だった取引先のタイルが動いた。

「その説明は違います」

顧客側の責任者がカメラをつけた。

「部長から、失敗しても契約社員へ責任を集めるので承認してほしいと言われました。断ったはずです」

部長は、取引先が勝手に面談へ紛れ込んだと怒鳴った。

だが会議招待履歴では、部長自身が《処分を見届けてください》とリンクを送っている。さらに会議室予約の備考には、《顧客立会いで本人を黙らせる》と残っていた。

取引先は、停止後に部長から届いた謝罪文も共有した。《担当者一人の独断という形で処理する》と書かれ、更新時刻は事故の三分後。失敗してから責任者を探したのではなく、作業前から私を責任者にする筋書きだった。

人事担当は契約終了通知を取り下げた。

「更新ではなく、正社員登用へ切り替えます」

部長の顔が固まる。

「障害の責任者は記録どおり変更します。契約を終えるのは、あなたの管理職契約です」