一歩一粒の播種筒
黒土平原には、雨まであと一日しかなかった。
三十町の豆を蒔き終えなければ、次の雨季まで畑は空になる。ところが戦から戻った村には働き手が十二人しかおらず、手蒔きでは一町に半日かかる。
領主の農務官は「間に合わない畑は没収する」と札を立てた。
鋤田直緒は、車輪のついた細い箱を鍛冶屋から引いてきた。
上には種を入れる漏斗、下には土へ届く筒。車輪が一回転するたび、内側の小さな穴が一度だけ種を落とす。後ろの板が溝を閉じる。
「玩具を押して畑を耕す気か」
農務官フェルゲンは、直緒へ最後の一町を与えた。
開始の鐘が鳴る。
手蒔き組は、溝を掘る者、種を落とす者、土を戻す者の三人一組で進んだ。直緒は播種筒を一人で押す。車輪の跡が真っすぐ伸び、その中央へ豆が一歩ごとに一粒ずつ埋まる。
一刻後、手蒔き組は四分の一町。直緒は一町を終えていた。
農務官は土を十か所掘り返した。種間は九歩分の紐目でそろい、二粒重なった場所は一つだけ。手蒔き区画では近い所に五粒、遠い所は腕二本分空いている。
さらに種袋を量る。同じ一町で、手蒔きは百二十升。直緒の筒は七十四升。厚蒔きにならないため、四十六升が次の畑へ回せた。
列がそろったため、後から水を引く溝も一本で済んだ。曲がった手蒔き列を避けて歩く必要がなく、畑の端までの往復距離も三分の二になっていた。
「速くても芽を傷つけている」
フェルゲンが筒を分解させた。内部の穴は豆一粒よりわずかに大きく、割れた種は袋底の三粒だけ。手蒔き組が踏んだ豆は二十七粒だった。
直緒は筒を十二人へ渡し、押し方だけを一度見せた。夕鐘までに十二町。夜明け前には残る十八町も終わり、最後の土を閉じた直後に雨が落ちた。
農務官は没収札を立てる場所を失った。
領主は種袋の残量と作業札を見比べ、フェルゲンの印を外した。
「播種筒を五十台発注する。直緒を平原の播種監督に任じ、救った種の三分の一を報酬とする」
雨音の中、鍛冶屋の注文板が一晩で埋まった。