七十円ずつの放課後

放課後の購買に、焼きそばパンが一つだけ残っていた。

八十島果歩と、隣のクラスの男子が同時につかんだ。

「私が先」

「指、こっちが下」

「上から押さえたのは私」

「それは横取りの形」

購買のおばさんは、レジを閉めながら言った。

「じゃんけん」

二人はパンを離さないまま、空いた手を出した。

果歩がグー。男子がパー。

「はい、俺」

「今のは練習」

「負けた人が言うやつ」

「放課後の購買に公式ルールはない」

「ある。弱肉強食」

男子がパンを引く。果歩も離さない。袋の中で焼きそばが片側へ寄った。

「破れるから!」

おばさんが定規を持ち出した。

パンを袋ごと中央で測り、包丁で真っ二つに切る。片方には紅しょうがが多く、もう片方には焼きそばが多い。

「百四十円。七十円ずつ」

「公平じゃない」と果歩が言う。

「どっちを選ぶか、じゃんけん」

「また?」

「今度は本番」

果歩はチョキで勝った。

焼きそばの多いほうを取ろうとして、紅しょうが側を選んだ。

「そっちでいいの」

「辛いほうが好き」

「俺も」

「じゃんけんで負けたから我慢して」

二人は購買前の階段へ座った。

男子は演劇部の大道具らしく、制服の袖に青いペンキがついている。果歩は委員会の資料を抱え、昼食を食べ損ねていた。

半分のパンは、思ったより小さかった。

一口で紅しょうがが全部なくなり、二口目はほとんどパンだけになった。男子のほうから、焼きそばが落ちる。

「そっち、多すぎ」

「交換する?」

「食べかけ」

「今さら」

「じゃあ焼きそば一本だけ」

「細かい」

男子は自分の半分から麺を一本抜き、果歩のパンへ載せた。

一本では何も変わらない。

果歩も紅しょうがを一片返した。

「七十円分になった?」

「たぶん六十八円」

「残り二円は」

「次、会ったとき」

男子は立ち上がり、青いペンキのついた手を振った。

翌日から、放課後の購買で二人は何度か会った。

焼きそばパンが二つ残っている日も、どちらかが先に買って半分にした。

最初の一個を奪い合ったことより、一本の麺と一片の紅しょうがで、次に会う理由をつくったことを、果歩は長く覚えていた。