三つ目の鍋

給食開始まで二十五分、井筒瑞葉は調理台に二つしか鍋がないことに気づいた。

今日の献立は胡麻入りの豆乳スープ。胡麻アレルギーの児童一人には、別鍋で胡麻を入れずに作る予定だった。ところが朝、その児童は欠席と連絡があり、厨房責任者が特別食の鍋を片づけさせていた。

「さっき学校から、三時間目から登校したと」

新人調理員が青ざめた。主鍋はすでに完成し、同じミキサーと杓子が使われている。

責任者は時計を見た。

「上の胡麻だけ避けて、別容器に取りなさい。少量なら分からないし、今から作り直す時間はない」

瑞葉は原材料表を開いた。胡麻は飾りではなく、練り胡麻としてスープ全体に溶けている。見た目から取り除くことはできない。

「その容器には入れないで」

瑞葉は新人の手を止めた。

「欠席連絡を信じて鍋を片づけたのは、あなた一人の判断じゃない。今は安全な一食を作ろう」

備蓄庫から未開封の豆乳と野菜ペーストを出し、小鍋を一つ追加した。洗浄済みの器具が主鍋の湯気に触れないよう作業台の端を空け、黄色いテープで専用区域を作った。新人が焦って袋を開けようとしたので、瑞葉は原材料表示を二人で声に出して確認した。早くするために省くのではなく、迷う場所を減らすことで時間を取り戻した。加熱時間を確保するため、特別食だけはパンと果物を先に配り、スープは後から教室へ届けることにした。温度計、専用杓子、色の違うトレーを揃え、瑞葉自身が教室まで運んだ。

児童は遅れて届いたスープを見て、「私のだけ熱い」と笑った。湯気の向こうで担任が、ゆっくり食べるよう声をかけた。

厨房へ戻ると、責任者は不満そうに言った。

「一人のために全体の流れを変えると、現場が持たない」

瑞葉は、欠席から登校へ変わった時点で特別食を再確認する欄と、鍋を片づける前の二人確認を作業表へ足した。新人には、間に合わないと思ったときほど勝手に埋めず、声を上げるよう伝えた。

午後、来月の献立責任者を引き受けるかという通知が来た。

瑞葉は三つ目の鍋を洗い終え、承諾を押した。