三社で一つの口座
映像配信会社の外注費決裁会議で、城之内蒼は経理代行会社の支払担当として、三社分の請求書を確認していた。字幕制作、視聴分析、宣伝動画。合計一億二千万円を月末に振り込む予定だった。
三社の社名も所在地も代表者も違う。請求書にはそれぞれ角印が押され、成果物の検収印もあった。
蒼は振込先マスタを見比べた。三社とも銀行、支店、口座番号が同じ。名義だけが異なる表示になっている。
制作部長は、三社が同じ収納代行サービスを使っていると説明した。
蒼は銀行の口座名義確認を行った。実際の名義は「ストリームパートナーズ合同会社」一社だけ。三社はいずれも登記がなく、請求書に記された法人番号も桁数が一つ足りなかった。
成果物も調べた。字幕ファイルは社内アルバイトが作ったもの、視聴分析は無料ツールの画面コピー、宣伝動画は前年版の社名を変えただけだった。ファイルの作成者情報はすべて制作部長のアカウントである。
三社の角印を重ねると、外周の欠けと朱肉のむらが完全に一致した。一つの印影画像へ社名だけを載せ替えていた。検収印の時刻は請求書作成より二時間早い。
ストリームパートナーズの代表は制作部長の配偶者だった。振込後、九千万円を部長個人の住宅ローン口座へ送る予約も入っている。
蒼の上司は、制作現場の機密には踏み込むなと止めた。蒼は支払データの確定を解除した。
「三つの仕事をした会社が一つなら、まずその一社を契約書に出してください」
蒼は三社の請求書に同じ誤字も見つけた。「検収」を三通とも「検収収」と記している。作成ソフトのライセンス番号も同じだった。制作部長は外部業者に雛形を渡しただけだと言ったが、その雛形の保存先は部長個人のクラウドで、三社のログイン記録はなかった。
税務登録番号も三社すべて無効で、適格請求書として使えるものではなかった。
社長が一億二千万円の決裁印から手を離した。同じ口座へ並んだ三社は、振込時刻を一分も迎えられなかった。