乾燥機の白い窓
志摩はベッドごと捨てたかった。
元恋人の整髪料の匂いが、枕にも毛布にも残っている。那由は、使える寝具を買い直すのは無駄だと言った。
「匂いにお金払って寝るほうが無駄」
「大型コインランドリーなら落ちる」
「新品のほうが早い」
「朝になって後悔する」
二人は二十分言い合い、結局、寝具を黒い袋へ詰めた。
深夜のランドリーには誰もいなかった。志摩が毛布を機械へ押し込み、那由が洗濯表示を確認する。香りの強い柔軟剤を入れようとすると、那由が止めた。
「別の匂いで上書きしない」
「じゃあ残ったら?」
「もう一回洗う」
那由は節約家なのに、そこは二回分払うつもりらしい。
残り四十八分の表示が点灯した。
志摩はベンチに座り、那由は少し離れた椅子に座った。慰める言葉も、恋人の悪口もなかった。回る毛布が窓の向こうで持ち上がり、落ちる。
二十七分のところで志摩が「戻りたいわけじゃない」と言った。
那由は「うん」とも言わず、自動販売機で水を二本買い、一本を隣に置いた。
途中で洗濯槽が偏り、機械が止まった。店内電話で聞いた手順どおり、二人は毛布をいったん引き出して均等に入れ直した。湿った布は想像以上に重く、片方だけでは持ち上がらなかった。
乾燥が終わると、毛布は熱く、石けんの匂いだけになっていた。
「ほら」
那由が勝ち誇るので、志摩は少し腹が立った。
「まだ枕がある」
「次の便」
「新品でもよかった」
「それも明日決めればいい」
大きな台でシーツを畳む。志摩は角を合わせるのが苦手で、那由は四隅を内側へ入れる方法にこだわった。
「そんな丁寧にしなくていい」
「収納に入らない」
「今夜使うのに」
「それでも畳む」
二人は反対側を持ち、一度だけ大きくシーツを振った。白い布がふくらみ、すぐに平らになる。
部屋へ戻ると、那由はベッドを整えた後、泊まらず帰った。
「一人で眠れる?」
「眠れなかったら動画見る」
「電気代かかるよ」
「そこは放っておいて」
ドアが閉まってから、志摩は熱の残るシーツへ横になった。
隣は空いていたが、空いている場所まで清潔だった。