伝説装備を捨てた拳

「黄金竜に最高レア武器? 反射倍率百倍だぞ」

「風間朱里、聖剣自慢しに来ただけ?」

「抜いた瞬間に自分が消し炭だろ」

風間朱里は祭壇の前で、国宝級の聖剣を鞘から抜いた。

黄金竜アウルムの鱗は、攻撃に使われた装備の希少度を読み取り、その価値に比例して威力を返す。木剣でも二倍、伝説装備なら百倍。低級武器では鱗を傷つけられず、高級武器では使用者が死ぬ。最適解が存在しないボスとして、七年間封鎖されていた。

聖剣は王都からの貸与品で、傷一つでも罰金が発生する。コメント欄が騒いだのは竜より、彼女がそれを雑に持っていることだった。朱里は気にせず、鑑定紋が読み取れる角度だけを確かめる。

朱里は聖剣を掲げ、カメラへ刃紋を見せた。

竜が目を細める。鱗の鑑定紋が金色に輝き、反射倍率《×100》を表示した。

「やっぱり挑発配信か」

「運営、止めたほうがよくない?」

「……聖剣、床に置いたぞ」

朱里は聖剣を手放した。

高価な刃が石床へ転がり、鑑定紋が対象を失って点滅する。彼女は手袋も指輪も外し、素手で竜の前へ歩いた。

アウルムが嘲笑うように顎を下げる。

人間の拳など、鱗に届く前に砕ける。竜の表情はそう言っていた。

朱里は右拳を一度だけ突き出した。剣術大会では一度も使わなかった、鍛冶場育ちの拳だった。聖剣を握る前から、彼女の手には鉄を叩いてできた硬い節がある。

軽い音だった。

鑑定紋に表示された希少度は《0》。装備ではない攻撃は反射対象外。そして黄金鱗の裏には、“希少度が低いほど防御力も低下する”という釣り合いの規則が隠されていた。

拳が触れた一点から、黄金の鱗が波紋のように剥がれる。

守りを失った巨体は自重を支えられず、胸の核まで一直線に崩壊した。床へ落ちた金貨のような鱗が、何千枚も鳴り続ける。

「裸拳はレア度ゼロ!」

「防御補正もゼロになったのか」

「聖剣は倍率を表示させるためだけの鑑定道具」

「国宝を囮にして、初期パンチ一発……」

朱里は床の聖剣を拾わず、赤くなった拳へ息を吹きかけた。

急上昇一位の切り抜き題名が確定する。

【SSR聖剣を捨てた瞬間、黄金竜がワンパンされた】